16人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
影の追憶
風が強く吹いていた。
視線の先には、唸る化け物の姿。
どうして、どうしてこうなった。
確かにこの谷は人間と魔族がそれぞれに持つテリトリーの中間地点に位置するけれど―
こんなに格上の魔物が出るなんてこと、あるのだろうか。
「…っ」
シュッ!
刹那、閃き。
ザッッ。
渾身の力で放った光も、素早くかわされてしまう。
せめてこの場所に、ラリアを連れて来たりなんてしなければ―
こんな目に遭わせずに、済んだのに。
そうだ、あの子に出会った時も、そうだった。
荒れ狂う暴風の中、1人でいた彼女に僕は―
鋭い瞳が僕を捉えた。
僕の中で、何かが疼く。
怪我を庇ったまま向き合うなんて、僕が馬鹿だったんだ。
烈風に巻き上がる、木の葉と煙の渦。
目を細めると、襲う煙の白の中に、黒い影が揺らめいていた。
誰かがいる。
人間だ。
顔がちらと見えて、心から安堵する。
あぁ、今日ここに来ることを伝えておいて正解だった。
ラリアをよろしく頼むよ、ハールート。
「先生!」
叫ぶ声が、僕の耳にリフレインする。
そして頭蓋に響く、あの子の泣き声―
そうして僕の意識は、どこか遠くへ姿を眩ました。
最初のコメントを投稿しよう!