影の追憶

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影の追憶

風が強く吹いていた。 視線の先には、唸る化け物の姿。 どうして、どうしてこうなった。 確かにこの谷は人間と魔族がそれぞれに持つテリトリーの中間地点に位置するけれど― こんなに格上の魔物が出るなんてこと、あるのだろうか。 「…っ」 シュッ! 刹那、閃き。 ザッッ。 渾身の力で放った光も、素早くかわされてしまう。 せめてこの場所に、ラリアを連れて来たりなんてしなければ― こんな目に遭わせずに、済んだのに。 そうだ、あの子に出会った時も、そうだった。 荒れ狂う暴風の中、1人でいた彼女に僕は― 鋭い瞳が僕を捉えた。 僕の中で、何かが疼く。 怪我を庇ったまま向き合うなんて、僕が馬鹿だったんだ。 烈風に巻き上がる、木の葉と煙の渦。 目を細めると、襲う煙の白の中に、黒い影が揺らめいていた。 誰かがいる。 人間だ。 顔がちらと見えて、心から安堵する。 あぁ、今日ここに来ることを伝えておいて正解だった。 ラリアをよろしく頼むよ、ハールート。 「先生!」 叫ぶ声が、僕の耳にリフレインする。 そして頭蓋に響く、あの子の泣き声― そうして僕の意識は、どこか遠くへ姿を眩ました。
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