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光差す
「ここが、我がイエギル王国最高峰の学校、カザーヌ王立魔法学校だよ。一流の魔法使いの教師陣と、優秀な生徒が集う場所」
「おぉ…」
目の前に広がる、見たこともないほど大きい建物に、私は早速目を輝かせていた。
その周りには深い堀が在り、川が流れている。
太陽の光を集めて転がしたような、ビーズ玉のような、そんな煌めきを持った水面。
正門前には大きな橋が架かり、その横で旗がはためく。
流石は一流の学校、何人もの守衛さんが堂々と立っている。
「今日は入学式だから、沢山の新入生がいるね」
「えっ?」
沢山の新入生って?
いまここにいるのは守衛さんたち以外、私たちだけのはずだ。
思わず辺りを見渡す。
「あはは。今は、私が君にだけ見えなくしていたからね」
「えっ」
「ほら」
ハールート先生がぱっと杖を振った途端。
キラッと羽音を響かせると、数多の学生が現れた。
私が今朝渡されたマントと同じものを纏い、この場にいる皆が希望に胸を膨らませているのが分かる。
「11歳以上の子供だったら、何歳でも入学できるんだよ」
確かに、同じ年とはいえない背の高さの人も何人かいる。
ぞろぞろと人が集まってきている。
入学式はもうすうぐだろうなぁ。
「ハールート先生、式ってあとどのくらいで始まるの?」
そう尋ねると、先生はあははと笑って答える。
「あー、うーん、きっともうすぐじゃないかな」
「え?」
「校長先生が来ないと始まらないからなー。あの人、物凄く気まぐれでマイペースだから…。正直いつ始まるかは…」
そう言って、先生は目を泳がせた。
「えー、大丈夫なんですか?それって」
「まぁ、きっとね。流石にあの先生も、入学式くらいはちゃんと来ると思うよ」
「よかった」
バサッ。
音のする方を見上げると、そこには一羽の鳩。
凛とした目つきで、白い手紙をくわえていた。
見惚れているのも束の間、凄いスピードで空へ羽ばたいていく。
「わぁ」
「伝書鳩だね、校長先生の」
「ところで、先生」
「ん、何かな?」
「あの、先生とレヴァって、どういう関係だったんですか…?」
「あぁ、レヴァ先生はね、私の師匠のような存在だよ。私も君のように、孤児だったんだ。施設で育って街に出た時、運悪く魔物に襲われてしまって、そこで助けてくれたのが先生だったんだよ。それから私は、先生に魔法を教わった。それで、今はこの学校の教師をしているんだ。少し前まではラリアの家に教わりに行ったりしていたんだよ。見たことなかった?私の顔」
「あー…」
「あはは、いいよ。覚えてないのも当然だ。私は夜中に図々しく伺ってしまっていたからね」
「あっ、夜に来てたんですか」
ゴーン、ゴーン。
鐘が鳴った。
時計台の鐘だ。
その音を聞き、ハールート先生は、急にしんみりとした顔つきになって私に向き合った。
「先生は、ラリア、君のことを楽しそうに私に話していましたよ。すまない、先生を助けられなくて」
「いや、それより、レヴァを保護?してくださってありがとうございました」
レヴァは強い魔法をかけられ、植物のように眠っていて目を覚まさない。
部屋で預かって様子を見ているが、その魔法を解くにはどうすればよいのか私にも分からない―
先生は、そう話してくれた。
「優しい子だね、ラリアは」
先生には、私が表に出さないようにと、辛い気持ちを隠しているのが分かってしまったのだろう。
優しい手で、頭を撫でてくれた。
まるで親のように、先生は接してくれる。
「あっ、先生」
「何かな?」
「先生は先生なのに行かなくていいの?教師の席はあっちなんじゃ」
先生は動きを止め、少しだけきょとんとした顔つきになった。
「あぁ、そうだね。じゃあ、行ってくるよ。もうすぐ始まりそうだしね」
「うん」
鳩の鳴く声に、反響する鐘の音が混ざり、響き渡っていた。
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