プロローグ

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プロローグ

囂々と唸る暴風の中、奴の顔が視界に入る。 あぁ、またやってしまった。 僕がしたいのは、こんなことじゃないのに。 突如目の前に現れた激しい光に包まれ、視界が効かない。 途轍もない光線が、僕を襲う。 僕と対峙した魔物が、さらさらと粉になって散っていく。 決して、人間が悪いわけじゃないはずなんだ。 きっと。 僕は信じてる。 だからごめんね、今だけは。 今だけは安らかに。 ふと、向こうに小さな女の子がいることに気が付いた。 唐の下を、ゆらゆらとふらつきながら歩く姿。 きっと、この戦いの中じゃ― 親はもう、この世にいないのだろう。 躓きながら、必死に何かを探している。 僕は考えるより先に、彼女の元に走っていた。 「ねぇ、ひとり?」 「うん」 彼女の瞳には、薄い涙の膜が張っていた。 「じゃあ、僕と一緒に来ない?」 胸を撫で下ろし小さく頷く彼女に、僕の胸はどうしようもなく締め付けられる。 風が強く吹いて、辺りの草が撫でられていく。 「君、名前は?」 「えっと…、ラリア」 少しの間を置いて、頬を赤らめた彼女は口を開いた。 「ラリア」 彼女は、僕がこれまで会ったどの人よりも純粋で無垢な眼差しを持っていた。 「もう、大丈夫だよ。何も怖くない」
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