0人が本棚に入れています
本棚に追加
昔の話を語っていたら
かつて私は女子高生だった。
名前は水島忍、図書室に入り浸るほどの読書家だったが本以外にも好きな人がいた。
彼の名前は加藤旭、どんな女の子からもモテる普通の人。
成績は普通、運動神経も普通でぱっとしない平均的な人なのだが、なぜか癖や個性が強い女の子たちにモテモテ。
あらゆる女の子がアタックしていたが、彼は誰とも付き合わなかった。
唯一近い立場にいたのは加藤旭の幼馴染。
その幼馴染とたくさんの女の子たちの攻防戦はすさまじく、その光景をよく目撃していた私は撤退することにしたのだった。
職場の昼休みにて高校時代の恋愛話を語ると、性格の悪さと仕事のできなさ、そしてパパ活をしているという噂の新入社員が反応する。
「へえー……ていうことは水島さんって負けヒロインなんですね」
負け犬というのは聞いたことがあるが、負けヒロインという表現は初めてだ。意味合いはほぼ同じだろうが、不快な気持ちを感じる。
見た目はすごくかわいい分、性格は悪い。
一部の男子社員にはモテモテなのだが、彼女の性格を見抜いた少数派の男子とすべての女子は彼女を嫌っていた。
新入社員は三十路近い私を仕事以外で攻撃できることに満足しているのだろう……彼女の鼻の穴が馬のように大きくなっている。
ああ、なんて残念な顔だろう。まさに性格の悪さがにじみ出ていた。
「負けヒロイン?」
「そうですよ。恋愛に敗れた人そのものですよね。結局付き合えなかったってみじめではありませんか」
「確かにそうかもね……、それでもいい思い出だったわ」
「へえ……」
付き合いたいという希望はあったけれど、とにかく癖の強い人ばかりだったので私は高みの見物を選んでいた。それがよかったのか、女同士のトラブルで泣くことはなかった。本当、回避できてよかった。
周りの女たちは私と新入社員のやりとりをハラハラしながら見守っている。
勝負の行方がわからないふりをしながらも、生意気な新入社員がこてんぱんになるところを望んでいるのだ。
「すさまじい修羅場があったから、逆に近づかなくてよかったわ。あ、そういえば」
と私は新入社員にとある写真を見せる。
それは新入社員と年の離れた男性が仲良くホテルに入ろうとしている写真だった。
新入社員は顔を青ざめて私を見つめる。
「あなたのこと、朝から話題になっていたの。人事部の間でね。多分、本日中には知らせが来るから期待しててね」
もうそろそろ昼休み終わるから失礼と周りに会釈した後、私は颯爽とその場を去る。
ああ、この新入社員の末路が楽しみだとほくそ笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!