鮮紅のノルン ~子種を下さい、と彼女は言った~(仮)

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「子種を下さいッ!」  身体が重い。腹が痛い……と言っても別に悪いものを食べたわけでもなければ、病気というわけでもない。物理的な衝突による、鈍い痛みが腹部に残っている。  衝突した方は俺にのしかかっていて、僅かばかり前にトンデモナイことを叫んだ気がする。というか叫んだ。絶対に。 「えっと……今、なんて?」 「子種を下さいッ!! そう申し上げたのです、藤堂鋼一先輩……で、合ってますよね?」  正直に答えるべきか、答えざるべきか、それが問題だ。  ……オーケイ、まずは状況を整理しよう。  俺の名前は藤堂鋼一。普通の大学生。家族構成は両親に妹。ちなみに両親は海外赴任中、妹は女学院で寮生活中。  20XX年12月25日、つまり本日は日曜日休みバンザイの生まれで、しかして誕生日とクリスマスプレゼントをおまとめされる微妙な日に生まれついてしまった点を除けば、大きな不満は何もない。  遅く起きた朝に喉が渇いていたので、とりあえず水なりジュースなり一杯と冷蔵庫を開けた途端に、一撃喰らって転倒。  俺は激突相手を改めて凝視する。  はきはきした元気な感じの女の子が、俺を押し倒している。見下ろす表情は真剣そのもの……は伝わるのだが、くりっとした瞳に、短い眉毛に血色のよい肌では緊迫感が今一つ足りてない、言うなれば頑張る後輩か、小動物的な世界観だ。 「あの……先輩?」  年下っぽいイメージとは裏腹に、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでるというボディを、薄紅色基調のボディスーツで包んでいる。これがまた見るにつけ、極薄としか思えない代物で、コスプレの域を逸脱している。これじゃあ恥ずかしいボディペインティングと大差ない。乳房の先端が浮き出ていたり、おへその稜線も綺麗だったり、この位置からは見づらいが下の方もきっとくっきり……。 「先輩?」 「どひゃあ!?」  エロスーツもといつぶらな瞳が迫ってくる!?  なんで先輩!? というかそもそも! 「誰なんだアンタ一体!? 冷蔵庫の女神か!」 「あ、え!? 違います! 女神じゃありません! うわびっくりしたー、誰ってそれはえっとすみません申し遅れましたふらなは子種を頂きに未来から参上したのです。ふう……以上、名前と目的です。自己紹介に必要なものはこれで合ってますよね?」     うん、大声を出して悪かったと思っている。だがそれとは別に根本的な疑問を口にできた自分をなんとか褒めてやりたい。うん、対処してるっぽい自分をもっと褒めてやりたい。  爽やかな日曜の朝に搾精目的のエロスーツ未来人が冷蔵庫から出て来たとか情報量多すぎ。クリスマスよ手加減してくれ。 「と、とりあえずどうもありがとう……で君は」 「どういたしまして。では早速子種を」 「ストップ! スト――――――ッップ!!」  密着するな! 顔が近い、近い近い近過ぎる! さらに君のおっぱいが俺の胸筋に触れてる! 先端の感触までリアル! 柔らかくてあったかくてこれ生肌と変わらない! 変わらないから勘弁して! スウェット上下とトランクスだけの無防備な俺の精神を壊す気か!  このままでは絶対にヤバい!  彼女と身体を離すべく、両手で彼女の肩を掴む。とにかくいったん離れなくては! 理性が持たん! 「せ、先輩何を!?」  それはこっちの台詞だ! てかなんでこの娘咄嗟に俺の腕掴んでんの?! しかも意外と力が強い! なかなか離してくれない!  は~な~れ~ろ~!  こうなったら横に振って……! 「うおお!?」 「きゃあ!?」  やりすぎた!?  押し合い引き合いしているうちに、ふらなさんがぐらついた。俺に乗ったまま揺れる乳房、傾く肢体、バランスが崩れる! それでも彼女は手を離さない! 俺の身体もぐいっと引っ張られて転倒し、勢いづいたまま横に転がった。視界がブレ、ふらなさんと対面したまま天地が逆転する! この勢いは危険だ!  彼女を思いっきり引っ張って、懐に抱きかかえたと同時、フローリングが眼前に肉薄し、衝撃が顔面を突き抜けた。 「ぐぐ……」  派手に視界が明滅する。冴えない呻きを上げてしまった。ろくすっぽ受身も取れないなんて情けない……もしも高校時代の俺がタイムスリップしてきて、この光景を見たら笑うだろう。中高の、柔道の鍛錬は一体なんだったのかと。  しかも自分の家で顔面から思いっきり床に突っ込むとか、笑い話にもならない。咄嗟だったから大したことは出来なかったが、彼女は大丈夫だろうか。 「ふらなさんごめん……怪我はないか?」  俺の身体の下にいる筈だから早くどいてやらねばと、床に手をつこうとして、掌にふにゅっと柔らかい感触と、「んッ」という可愛らしい呻き声。  ……ふにゅ?  ……まさか。 「…………あ」  うん、俺は彼女を庇った。あのままだと危ないと思ったから抱きしめた。そのはずだった。  自分は無様にも顔面から床に激突したが、彼女はどうやら無事らしい。そして起き上がろうと手掛かりを探して右手を彷徨わせ……問題は、問題はだ。掴んだその先は地面じゃなかった。  ふらなさんは、やはり俺の下にいて、いま目が合った。その頬は紅潮し、きょとんと瞳は見開かれ、僅かに潤んでいる。唇は小さく震えている。  とりあえず怪我はなさそうでよかったけれど、つまり、手掛かりを探し掴んだのはふらなさんの身体で、俺の右手が、ふらなさんの豊かな胸を、鷲掴みにしていて、四つん這いの俺と、仰向けのふらなさん。  即ち、俺がふらなさんを押し倒している。 「せ、せんぱい……」 「こ、これは、その……」 「ひゃあッ!」  離れようとしてつい力を込めてしまった! 俺の身体の下で、少女のしなやかな肢体が小さく跳ねる。  やばい、これはやばい。形を変え、指を包み込み、手をそのまま飲み込んでしまいそうなほどの柔らかさと弾力、肌に吸い付いてくるような手触り、紅潮した頬、切なげな吐息……顔が熱くなり、一か所に血液が集まってくるのを自覚してしまった。 「うわああッ!? ごめんなさい!」  逃げる様に跳び退き、尻を引きずってふらなさんから離れた俺の脳裏から、網膜から、彼女が焼き付いて離れない。  成熟した体つき、上ずった悲鳴、潤んだ視線、惚けた表情……恥知らずな事に、俺のへその下のモノはがっちがちに硬くなり、準備完了と言わんばかりにズボンを盛り上げていた。  あのままだったら、ふらなさんに欲望をぶちまけていただろう。  極薄の服を引き裂き、彼女が嫌がろうが何をしようが捻じ伏せて、腹が裂けるぐらいの勢いで子種を注ぎ込んでいたに違いない。  呼吸が苦しい。いつの間にか、息を荒げていたらしい。 「はあっ、先輩……? な、なさらないんですか? 注がれないんですか?」  舌ったらずな声が追ってくる。  視界の端で、上体を起こし座り込んでいる彼女をまともに見れない。 「ふらなさん」  未来人、子種、突然の降臨……聞きたい事は山ほどある。  それでも、今の俺には、これを言うのが精いっぱいだった。 「自分を大切にしてくれ……若い男に軽々しく子種を、なんて言っちゃだめだ」  自分でも解るぐらい、冷たい口調だった、と思う。  ふらなさんは少しの間キョトンとしていたが、やがてゆっくりと頷いてくれた。お返しに俺は、微笑めていただろうか。 「……お腹、空かない? 何か食べようか」
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