ポケットの中には、

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ポケットの中には、

ーー僕のポケットの中はいつだって幸せだ。 1年目 「寒いね」と言ったキミにコートのポケットで温めていたカイロを出して渡した。 キミは両手でそれを受け取ると「ありがとう」と言って嬉しそうにカイロをぎゅっと握りしめていたね。 2年目 「寒いね」と言ったキミの手をぎゅっと握った。 冷たくなったキミの手を僕のコートのポケットに迎え入れた。 嬉しそうに笑ったキミを見て、 僕も嬉しくなってポケットの中で再び、ぎゅっとキミを確かめたんだ。 3年目 「寒いね」と言ったキミに僕は手を差し出した。 「あっためてくれるの?」と言いながら僕の手に自分の手を重ねたキミ。僕は強く握り返した。 キミの冷たい手に反して、僕はドキドキで。 熱くて、手が汗ばんでいて キミに不快な思いをさせていないか心配になりながら、そっとコートのポケットにキミの手を迎え入れた。 「ん?なんか入ってるよ」 そう言ったキミは不思議そうに僕の顔を覗き込む。 僕は俯いたままポケットの中の小箱をキミの手に渡した。 「なに?わたしにくれるの?」 「……うん、もらってくれたら……嬉しい」 「なんだろ〜」そう言いながら、スポッと僕のポケットから出したキミの手には僕が用意した小箱。 「え、これって……」 びっくりするキミの声に、僕は恐る恐る顔を上げながら、精一杯の気持ちを声にした。 「僕と、結婚してください!」 僕のポケットの中にはーー。 「喜んで!」 パカッと箱を開けたキミは「はめてくれる?」と言いながら左手を僕に差し出した。   「もちろん」そう言ってキミの華奢な薬指に、それをはめる。 泣きながらキミが笑ってくれたから、反対のポケットからハンカチを出してそっとキミに渡す。 キミの左手はぎゅっと握ったまま、ズボッと僕のコートのポケットへ再び迎え入れた。 ポケットの中でキミの薬指を意識しながら、 これからもキミとの思い出を増やしていこうと思った。 「ねー、なーに、ニヤけてるの?」 「いやだってプロポーズ受けてくれて、嬉しくて。それと」 「それと?」 「今日もポケットの中が幸せだなって」 「なにそれ」 僕のポケットの中はいつだって幸せだ。 僕のポケットの中にはーー キミの温もりと、 キミとの思い出と、 キミへの愛であふれてる。 これからも、ずっと。 【ポケットの中には「愛」がある。】おわり
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