16.救出

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「もし良かったら、今から結婚の儀式を行いますか」 ファーレインは、そっと、二人に声を掛けた。  ヴェイルとハナは腕をほどき、ファーレインを見た。 「私は司祭なので、婚姻の儀式を執り行う事が出来ます」 と、ファーレインが、言った。  ハナは、鎧姿のファーレインが、司祭と言うのが信じられなかった。  そもそも司祭に対する良い印象が全くなかった。  戸惑っているハナに、ヴェイルが囁く。 「あの人は、ちゃんとした司祭だよ。ハナを助ける為に、手を尽くしてくれたんだ」 「そうなの……」  ファーレインは、顔を引き締める。 「同じマルク教会の司祭として、ベルマンがやった事を謝罪させて下さい。申し訳ありませんでした」 そう言って、頭を下げた。  ハナは、困った様にファーレインを見る。 「悪いのは貴方じゃないわ。頭を上げて下さい」  ファーレインは、頭を上げた。 「何処に行っても、ヤな奴と、良い人がいるわよね」 ハナは、そう言ってヴェイルを見た。ヴェイルは、うん、と頷いた。 「私も、もっとしっかりしないと」 そう呟くと、ハナは、ファーレインを見た。 「お願いしてもいいですか」  ファーレインは、微笑んだ。 「勿論です」  ヴェイルと、ハナは、嬉しそうに顔を見合わせた。  馬車が路肩に停まった。  草むらを下りると細い川が流れている。その河原に、ヴェイルとハナは並んで立った。  鎧を脱いで聖職者の姿になったファーレインが、二人の前に立つ。  治安部隊の兵士たちが、立会人となった。  二人は、司祭の前で誓いの言葉を述べ、司祭ファーレインが神に代わってそれを聞き認めた。 「お二人の、結婚が成立したことを宣言致します」  ヴェイルとハナは、夫婦となった。  治安部隊の兵士たちが、拍手を送り、祝福した。 「良かった」 ファーレインは、心から呟いた。  ファーレインにとって、これが司祭としての初めての仕事となった。  
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