プロローグ

1/5
前へ
/196ページ
次へ

プロローグ

 カララン。  静かな店内にドアベルの音が鳴り響く。ホールのテーブルで一人ノートパソコンに向かっていた俺、鶴川 天(つるかわ たかし)は、画面から顔を上げた。 「よう!」  ドアの前には、ヒョロリとした男がニヤリと笑いながら、片手を上げていた。海老沢(えびさわ)さんだ。    ここは、洋食屋「ハピネス」。先代から続く店で昭和レトロな雰囲気が今でも漂う。そして、それが妙に落ち着くんだよ。そのせいか常連客も多く、彼もその一人だ。先代の頃から通っている。  それは有難いんだけどさ……  俺は、心の中でため息混じりにぼやく。    時々営業時間関係なくやって来るんだよー。刑事って職業柄、不規則なのは分かるけどね。でもさ、こっちにも都合ってものがあるんだよ。ったく、困ったもんだ。  俺は、大きく吐息すると、彼を軽く睨んだ。 「入り口に貼り紙してあったでしょ。見えませんでしたか?今日は臨時休業ですよ」 「あー、見た、見た。デッカいの貼ってあったよなぁ」  海老沢さんはそう言うと、ズカズカと俺の側へやって来た。俺は、軽く頭を掻く。 「注文しても何も出てきませんよ」 「アホ。そんなことくらい分かってるよ。ほら、これ」  彼は、小さな紙袋を顔の高さまで上げて見せると、俺の前のテーブルの上に置いた。
/196ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加