雪女涙

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 遊び疲れたのか、子どもたちがこちらに走ってきた。  真っ先にポテトを頼んだかと聞いてくる様に、苦笑しながらコーヒーを一口飲んだ。懐かしい昔話をしたせいか、苦いだけのコーヒーが心を落ち着かせた。  もうずいぶん昔の出来事に感じるのは、子供の成長が早いせいなのだろうか。 「にわかには信じられん」 そう言われて、正面を向くと、詳細を聞いてきた友人が胡散臭そうに俺を見ていた。 「双子の子どもがいるのは事実だとして、婚約者亡くした後に双子ちゃんのお母さんまでいなくなって、精神的に狂ってんじゃないの?」 「その言い草は酷くないか? 大体お前が聞いてきたんだろう」  それはそうだけど、僕はこんなオカルト的な話を聞いたかったわけではない、そう反論された。  別に信じたくないならいいよ、そう俺は笑った。  話したところで信じてもらえないのはわかっていたし、逆の立場なら俺も信じないだろう。  それでいいのだ。  誰も信じなくても、婚約者も、双子の母親の最後が、俺の見た幻だとしてもそれでいいのだ。あの日の確かな証拠が、双子という形をとって今ここに存在しているのだから。  双子がちょこんと空いている席に座り、ポテトの争奪戦を始めた。ここの店のポテトの味がちょうどいいらしい。 人数分買ってあるから、争わなくていいのに。 「お父さんの分も食べていいから、ゆっくり食べなさい」  向かい側に座っていた友人がコーラを吹きかける。  ゆっくり食べないと、あのおじさんみたいに咽るよというと、友人は誰がおじさんだ、と怒った。十分おじさんだろうという顔をしたら、物凄く睨まれた。  だが、そんなこと知ったことではない。  可愛い双子がいて、くだらない話が出来る友がいて。  それだけで、俺は幸せなのだ。  それに、誰にも言うつもりはないが、雪女のことを信じるのはもう一つ理由があった。  彼女が流していた涙には、体温があった。  人間と、何も変わらず温かった。  それだけで、彼女のすべてを信じるのは浅はかなのかもしれない。世間には気が狂っているといわれるのかもしれない。  だが、それを信じて救われる人間がここにいるのなら、それでいいのだ。  少なくとも、俺はその真実を抱え、愛し、生きていける。  窓の外を見ると、あたたかそうな雪が降り始めていた。  なんとなく、雪女(かのじょ)が紛れていて、その体温を感じられる気がした。
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