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四方山話『反乱未遂』
「やってられるかこんな事っ!!」
男の声が修道院中に響き渡り、周囲から奇異、恐怖、迫害、嫌悪、同意、様々な感情の視線が集中する。
声の主は年は二十代半ば、ガタイの良いまるで盗賊の如き容貌の男だった。
否、男は何度か徒党を組み盗賊働きをした事のある紛う方なき盗賊だった。
「俺達はいつまでこんな山奥で同じような事を繰り返してればいいんだよ!!」
勇者聖戦軍への参加を望んだ志願兵達は、到着から今日までの数日間、槍や剣すら持たされず延々と隊列と行進ばかり幾人も倒れるまで繰り返されていた。
訓練が終われば泥のように眠る者が殆どであったが、体力のある者や魔術師は不満を胸に悶々としていた。
「ふざけんじゃねぇっ!あのメスガキぶっ殺してやるっ!!」
ついにその鬱憤が爆発する者が現れたのだ。
そして、彼に同調するかのように幾名かの盗賊風の男達が立ち上がる。
「メスガキってのは誰の事かしら?」
面倒くさそうに後頭部を掻きながら現れる涼花。
体力に満ち溢れた柄の悪い大男の前に立つどう見ても十代前半程度にしか見えない涼花。
誰もが心配する中男は怒鳴る。
「俺達は聖戦の為に来たんだ!なのに何だこれは!?毎日毎日歩いてばかりだ!魔族の糞共を殺させろ!!」
「馬鹿かお前は?お前のような単細胞が訓練もせずに戦場に行っても飯と武器の浪費にしかならん。バカは黙ってアタシに従ってなさい」
男をわざと煽るかのような涼花のその歯牙にもかけない態度に男は怒りに任せ殴りかかった。
「いけないっ!!」
騒ぎを聞いてやってきたオタカルの制止は一歩遅かった。
殴りかかる男の拳を涼花は片手で軽々受け止めた。
「なっ!?魔術っ!!?」
男は驚愕した。
まさか自身の体重の半分もなさそうな少女が、真っ向から拳を受け止めることなど想像しておらず、たとえ魔術師であってもこの年頃で此処まで使いこなすほどの熟練者とは思っていなかった。
しかし、もっと驚いていたのは様子見をしていた数少ない魔術師の志願兵たちだった。
「は?魔術?何の事かしら?」
魔術師達には涼花が僅かも魔術、魔力すら使用していない事がわかっていたからだ。
「てめぇ、白を切るんじゃ……いでっ!いてててっっ!!」
涼花が掴んだ手に力を込めると男は耐え切れず腕を引こうとした。
ダンッッ!!
それに合わせ、涼花は前に出ると男の動きに合わせ腕を捻り足をかけて投げ飛ばすとそのまま間接を決めてしまった。
更に間接を決め動きを止め、男に賛同するように立ち上がった者達を睥睨した。
「ほら、アンタ達も不満があるならぶつけてもいいのよ?それも出来ない腰抜けならとっとと寝なさい。明日も早いのよ?」
その言葉に二の足を踏んでいた不満を持つ者が束になって襲い掛かってきた。
一人なら無理でも何人か一緒であれば勝てると思ったのだろう。
しかし、涼花はニヤリと笑うと掴んだままだった腕に力を入れ大きく振った。
ゴキンッ!
「------っっ!!!」
男の声にならない絶叫と共に涼花は暴徒達へ殴りかかった。
そして、涼花へ襲い掛かった男達は宙を舞った。
「ほらっ!他に不満のある奴はいないのっ!?」
涼花の暴れまわるその光景を見てオタカルは理解した。
涼花は鬱憤の爆発を予測していた。
そしてそれすら利用したのだと……
この小さな反乱は、死者の一人も出さず力ずくですぐさま鎮圧され、聖戦軍の面々は涼花に対し恐怖と無敵の感情を抱く事となった。
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