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料理を十分堪能して、私は店を出た。
冬を迎える直前の肌寒い夜の空が、ずいぶん暗くなって、ずっとずっと高いところから私を見下ろしている。
「帰りたくないな」、そんな思いが湧き出した。
その時だった、
「ちょっと待って」
誰かが私を呼び止める。
あまりにも色気のある男性らしい声。
「えっ?」
この人、さっき「灯り」にいた人だ。初めて見かけた人だけど、嫌でも視界に入ってしまう程素敵な男性で、そこだけ違うオーラが放たれていた。
私なんかには「全く縁のない人」。
瞬間的にそう脳が判断した。
そんな人が私に何の用?
もしかして忘れ物したかな?
「呼び止めて悪いな。さっきの話が気になって」
「え? さっきの話?」
いきなり何を言うのかと、思わず怪訝な顔をしてしまった。
「いや、プライベートなことだとはわかってる。でも……」
そう言いかけて、男性はほんの少し私に近づいた。
店から漏れ出す灯りに照らされたその顔は、この世のものとは思えない程美しく、簡単に言葉で表現するのは難しかった。
綺麗……
思わずため息を漏らしそうになり、すぐにハッとして我に返った。
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