恋を知る。

1/10
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
「本当に嫌だと思ってる?」  そう尋ねられ、なぜだか唾を飲み込んだ。 「……どういうこと?」 「いやだって、お前さっきから言葉では迷惑そうに語っているけど、口角が」 「口角が?」 「上がっているって、まさか自覚ない?」  親友の武田(たけだ)が、机に肘をつきながら呆れた顔でこちらを見ている。  俺の口角が上がっているって……? 「毎朝毎朝、電車で同じクラスの榛名(はるな)に肩を使われるって迷惑そうに言いながら、表情は満更でもないその感じ、何?」 「満更でもないって何? 迷惑だってそう言ってるじゃん」 「いやぁ、どうだかな。人気者といられて案外嬉しいとか思っているんじゃあないの」  やれやれと肩を上げ、自分の教室に戻ると言って、武田(たけだ)は席から立った。 「何かあったのかと思って話を聞きに来たら、何の話を聞かされたのやら。今度はもう少し、面白い話をしろよ」  ぽんっと俺の肩を叩いてから教室を出て行く武田(たけだ)の背中を見ながら、俺は自分の胸をさすった。  3ヶ月近くもの間、毎朝ほとんど榛名(はるな)と同じ電車になり、その度に寝落ちる榛名(はるな)に肩を使われていて。  それでその榛名(はるな)は一切起きずに俺の肩を使っているくせに、降車駅に着くと自然と起きて降りていく。  その程度の眠りの浅さであれば、俺の肩を使っていることにも気づきそうなのに、榛名(はるな)は何事もなかったようにしているし、起きた瞬間に肩を使ってしまったかもしれないと気にし、ごめんと一言謝ることさえしないのだ。  それが3ヶ月近くも続いていて、もううんざりだとそういう話を武田(たけだ)にしていたのに。  何? 本当に嫌だと思っているかって? 「おいおい、呆れるわ。んなわけあるかよ」  武田(たけだ)、お前も同じような目に遭ってみろよ。そうしたら俺の気持ちが分かるだろうに。 「だって3ヶ月……」  再び胸をさする。武田(たけだ)に口角が上がっていると指摘され、それを否定したのにも関わらず、どうしてかスッキリしなかったこの心の違和感が、何なのか気づいてしまった。 「車両かえれば良かっただけじゃあ?」  これまでほとんどいつも同じ電車の同じ車両に乗っていて、当たり前になりすぎていたから気にしていなかった。  俺が同じ場所にいて被害に遭っているのだから、もっと早くに車両をかえれば良かったんだ。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!