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 1日授業を終えて疲れた。こんな時は翼フォルダを眺めるのが1番だ。圧倒的な可愛さに、視覚から摂取した癒しが全身に広がる。 「透、帰ろうぜ」  後ろから涼介に引っ付かれた。肩に顎を乗せて、手元のスマホを覗かれる。 「本当に翼ばっかりだな」 「翼は見てるだけで癒されるから」 「俺は?」 「イケメンだと思うけど、癒されるまではいかないかな」 「もっとよく見ろよ」  後頭部を掴まれて、顔を横に向かせられた。至近距離に整った顔があるはずだが、近すぎてボヤけている。呼気が唇に触れてカッと顔が熱くなった。  さすがにこの距離は恥ずかしい。口を尖らせただけでキスができそう。 「あ、あのさ、近すぎて分からないから、少し離れてくれないかな?」 「それもそうだな」  すぐに離れていって、ホッと息を吐いた。  カバンを掴んで立ち上がる。  もうすぐで家に着く、というところで翼を見かけた。下校時に見かけるなんて運命じゃん、と声をかけようとした時にはたと気付く。翼が笑いかける相手に。真面目そうなメガネくん。  ……何で手を繋いでるの? 俺だって翼と手を繋いで外を歩くなんて小学生以来ないのに。  涼介を引っ張って、路地に入った。顔だけ覗かせて様子を伺う。涼介も俺の後ろから顔を出した。背中にピッタリと張り付かれて耳元に息が掛かるのが若干気になる。くすぐったい。でも、俺のくすぐったさよりも今は翼だ。 「あれ、何?」 「何って、彼氏じゃねーの?」  涼介は平然と言った。 「涼介は翼に……彼氏じゃないと思うけど、かもしれない相手がいても何とも思わないの?」 「どう見ても彼氏だろ。おめでとうって思うだけ。翼が幸せならいいんじゃないか」 「そんな……。翼を任せられるのは涼介だけなのに」 「は? そんな事言われても無理。俺、好きなやついるし」 「え? 聞いてないけど?」 「言ってないけど態度には出してる。翼ばかりじゃなくて、俺のこと見てれば気付く」  なんか色々ショックだ。翼に彼氏(俺は違うと思うけど)がいて、涼介には翼以外に好きな人がいて。  家の前でメガネくんに向かって手を振る翼。時折振り返って小さく手を振るメガネくん。メガネくんが角を曲がって見えなくなるまでそのやり取りは続いた。翼が家に入って大きく息を吐き出す。  帰ろうか、と言うために振り返った。涼介は塀に肘から先をつけて俺を見下ろす。 「今の見てどう思った? まだ俺と翼をくっつけるとか言うか? 翼も俺も翼の彼氏も、誰も幸せになんねーのに」  ……言われなくても分かってるけど、認めたくなかっただけ。いつも可愛い翼がメガネくんに向ける笑顔は、今までで1番可愛かった。翼を家まで送ってくれて、お互い見えなくなるまで手を振っていた。翼もメガネくんもお互いを思い合ってる事はよく分かった。 「……翼の幸せが俺の幸せです」  断腸の思いで声を絞り出した。 「弟離れの時期なんじゃねーの? 弟離れしてくれねーと、俺が困るし」 「何で?」 「そこで『何で?』て出てくるところとか。うち来るか? そんな情けない顔で帰りたくないだろ」 「うん、行く」  困らせてるらしいけど、今は甘えさせて欲しい。隣の涼介の家におじゃまさせてもらう。
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