2ー1

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 目に映るのは、真剣な表情の幼馴染である涼介。その奥には俺の部屋の天井。  涼介にベッドで押し倒されていて、この状況に困惑する。手首は顔の横で大きな手に押さえつけられ、腰に跨られているから足と顔しか動かすことができない。 「涼介離して」 「嫌だ。なぁ、いつまで待てばいい? 透は俺の事どう思ってるか聞かせて?」  眉尻を下げて笑う涼介に声が出ない。  告白されてから、ずっと返事をせずにきた。真剣に想いを伝えてくれたのに、断ることも受け入れることもしていない。  自分で自分の気持ちが分からない。涼介の事は好きだけど、幼馴染だからなのか恋愛感情なのか。涼介に触れられればドキドキする。  でもそれは、初めて好意を伝えられたからなのではないか、と思う。平凡な俺は、今まで誰にも告白なんてされたことがない。  自分の気持ちが分からないまま返事が出来なくて、涼介に悲しい顔をさせてしまった事が苦しい。 「涼介ごめん。俺、自分の気持ちがまだよく分からなくて」 「じゃあ、確かめてみるか?」 「確かめる?」  目を瞬かせて首を傾けた。  覆い被さっている涼介の端正な顔が近付いてくる。鼻先が触れ合い、呼気が混ざり合う。 「ちょっと待って、涼介!」  叫ぶと同時に飛び起きた。状況が理解できなくて辺りを見渡す。涼介はいない。部屋には寝巻き姿の俺だけ。スマホのアラームが起床時間を知らせるために、けたたましく鳴っている。 「夢? ……焦った。涼介とキスするところだった」  俺、涼介とキスできるのか? 目覚めるのが少し遅くて、唇が触れ合っていたらどう思ったんだろ。指先で唇に触れる。  告白の返事を先延ばしにしている罪悪感に見せられた夢なのかも。いい加減返事しないといけないよな。  学校へ向かう準備をして、2歳離れた弟、翼の部屋に行く。  翼は相変わらず可愛らしい寝顔をしていた。可愛すぎて癒される。いつまででも眺めていたい。  ベッドの傍に座り、癒しの天使である翼の寝顔を撮影した。これでまた、翼フォルダが潤う。 「翼、朝だよ。そろそろ起きようか」  肩を控えめに揺さぶると、大きな瞳があらわになり俺を映す。頬骨を上げて目が細められた。 「お兄ちゃんおはよう。いつも起こしてくれてありがとう」  心が洗われる。俺の翼可愛すぎる! 「いや、好きで起こしてるから気にすんな」  艶々の髪を優しく梳く。 「あっ、お兄ちゃんって今日の放課後暇?」  翼からのお誘い? 暇だし、暇じゃなかったとしても暇にする。優先順位は『翼>その他』だ。 「暇だよ」 「今日ね、大輔くんが家に来るんだけど会う?」  大輔くんって翼の彼氏だよな。会わせて、と言った事を覚えていたんだな。大輔くんと翼大好きトークしたい。 「いいよ、会えるの楽しみって伝えといて」 「うん! 大輔くんとお兄ちゃん仲良くなったら嬉しいな」  花の綻ぶような笑顔に心臓を撃ち抜かれる。可愛すぎる、天使すぎる。  笑顔を向け合っていると、扉が勢いよく開いた。身体を跳ねさせ、そちらに目を向ける。 「透! いい加減にしろよ。待ち合わせ時間には外に出ろ! できないなら連絡よこせ!」  涼介が仁王立ちしていた。ポケットからスマホを取り出すと、待ち合わせ時間はとっくに過ぎていた。 「今日はゴミ出しに出てきたおばさんと会って上がらせてくれたけど、毎日外で待ってる俺、健気すぎると思わねーか?」  涼介がこちらに近付いてくる。翼がごめんね、と謝る声がやけに遠くに聞こえた。  夢の中での事を思い出して、一気に顔が熱くなる。俺の目の前でしゃがみ、目線を合わせてきた。思わず唇をまじまじと見てしまい、慌てて視線を外して翼に抱きついた。 「お兄ちゃん、どうしたの? 顔真っ赤だけど、体調悪いの?」 「透、大丈夫か? 調子悪いのに怒って悪かったな」  2人が身体の心配をしてくれる。めちゃめちゃ元気だから申し訳なく思うけど、涼介を見ることが出来ない。 「体調は悪くない。……涼介が夢に出てくるのがいけないんだ」 「夢? じゃあ出演料を貰わねーとな」 「……逆に慰謝料よこせ」 「慰謝料って夢の中で俺、お前に何したんだよ」  何って、言えるわけないじゃん。ベッドに押し倒されてキスされそうだったなんて。 「……別に何もされてない」  未遂だったから。 「夢の中で俺に何かされてんじゃねーよ。現実の俺にやらせろ」  現実にあんな風に迫られるの? 恥ずかし過ぎて顔から火が出そう。翼に顔をぐりぐりと押し付けたら、堪えきれなかった翼がベッドに倒れる。 「お兄ちゃん、涼介くん優しいよ。怖くないよ、大丈夫だよ」  覆い被さっている俺の背中をポンポンとしてくれる。もう、翼から離れたくない。そう思っていたのに、涼介に身体を抱えられて剥がされてしまった。 「何されたか分かんねーけど、俺はお前の嫌がる事はしねーよ。だからいい加減翼から離れろ! 何で俺、翼相手にヤキモチ妬かねーといけねーの?」 「大丈夫だよ。僕とお兄ちゃんは仲良しだけど、僕には彼氏いるし」 「ああ、この前透と一緒に見た。……おい、透。急ごうぜ。遅刻する」  時計を確認する。走らないとまずい。  朝から学校までマラソンして、何とか遅刻は免れた。
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