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Episode.1 魔法女学校の王子様
澄み渡る青空。そよ風に揺れる美しい花。新品の制服に身を包み、優雅に歩く新入生たち。今日はフロース魔法女学校の入学式。そんなおめでたい日だというのにレグルス・ラナンキュラスは浮かない顔をしていた。
彼女の両親は魔法省で働くエリート。幼い頃から一人で過ごすことが多かった彼女はいつも寂しさを感じていた。だがそれを表に出すことはなかった。大好きな両親を困らせたくなかったから。わがままを言えば、たまの休みに遊んでくれる貴重な時間さえなくなってしまうかもしれないと思ったから。彼女は両親をがっかりさせないよう、いい子でいるように努めた。
たくさん勉強し、成績は優秀で、学校ではいつも1番を取っていた。最初は褒めてもらえるのが嬉しかったが、そのうち慣れてきて、当たり前になってしまった。名門のフロース魔法女学校に首席で合格した時でさえ、彼女も彼女の両親も驚かなかった。そうやっていい子でいるうち、彼女は息苦しさを感じるようになった。
これからもずっといい子でい続けなければならないと思った。この生活がずっと続くと思っていた。
──だから、この学校にも期待していなかった。
「続いて、新入生代表の挨拶です。レグルス・ラナンキュラスさん。お願いします。」
彼女は優等生モードに切り替えて壇上に登る。不安や緊張は見せずに、余裕を持って堂々と。凛々しい姿に皆息を呑み、彼女に注目する。
「きっとあの人が首席ってことよね…」
「髪が長くてお顔がよく見えないですわ。」
「ほぅ、黒髪とは珍しいですね。」
「どんな魔法がお得意なのかしら。」
こういった場で挨拶をするのは初めてではないし、このような言葉も聞き慣れている。だが、いつまでたっても期待と好奇の入り混じった独特な視線には慣れず、彼女の心に襲いかかる。
「〜〜〜〜〜」
挨拶を終えると、拍手に包まれながら壇上を降りた。無難な挨拶に期待外れだと落胆した者もいたようだ。淡々と挨拶をしているように見えたのだろうが、彼女のプレッシャーを知る者はない。勝手に期待され、がっかりされる。いちいち気にしていたら心がもたない。彼女はまたいつものように知らないふりをした。
そのまま何事もなく入学式は終わった。
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