愛する家族

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   けたたましい衝撃音に思わず目を瞑った。   「な!何なんだ!!」    ジョージの叫び声が聞こえてようやく瞼を持ち上げると、閉まっていたはずの扉が無い。そしてその代わりにガタイの良い大男数人がゾロゾロと歩幅を揃えてやって来る。    不気味な事にそいつらは皆似たような角刈りの頭に同じ顔、同じ角度で拳銃を構えていた。   「サロメ・バーンを発見しました。」    大男達を掻き分けて出てきた小柄な女は、帝国宮内庁(ていこくくないちょう)のカンムリワシのワッペンを堂々と胸につけ、ジョージと赤毛を順番に見る。   「おい、サロメ・バーンを取り抑えろ」 「やめろ!娘に触るな!!」    女の命令に忠実に同じ顔をした男達は娘を必死に守ろうとするジョージを力で地面にねじ伏せ両腕を背中に纏め拘束した。    「止めてくれ!私はどうなってもいい!娘には手を出さないでくれ!!」、悲痛の叫びに愛しい娘すら反応出来ないのは、男の積み重ねた業の代償である。   「お前のお陰でサロメ・バーンの居場所が分かったよ。限定版、買えてよかったね」    女の鋭い言葉に赤毛はどうする事も出来ず立ち尽くし、父親の必死な抵抗を眺めているだけである。そうしているうちにサロメは大男に担ぎ上げられて部屋の外に連れていかれるのだ。   「先生を裏切った代償だ。それもあの汚らわしい"バッジ付き"と手を組もうだなんて」 「何の事だ!私は誰とも手を組んだつもりは無い!!娘をどこに連れていくつもりだ!!」    置物のように虚ろな目の大男は親心に揺さぶられることも無く、音量のダイアルを捻るようにジョージの肩をグッと捻り痛みで黙らせる。    ―そして女は彼の額に銃口を押し当てた。   「ここで終わる人間に関係の無いことだ」    赤毛はジョージに向けられる銃口に怯えて呼吸すらもままならずぷるぷると震えている。    これは自分のせいだ、約束を守ってこの建物から出なければこんな事にはなっていなかった。    …ベッドの下に隠した玩具の人形より、人の命の方が遥かに重い。   「ッ!!」    しかし引かれたトリガーは、簡単に一人の人生の積み重ねを終わらせる。    押さえつけた大男の顔に飛ぶ血が灰色に見えた。鼻から吹き出る血も、虚ろに光が指さなくなった瞳も。    どうしよう、人を殺してしまった。    赤毛は痙攣するジョージから視線を外す事も出来ずに腰を抜かす。情けないが彼は自身の下着がじんわりと濡れている事に気がついた。   「薄汚い」と女は赤毛を罵って、くるりと踵を返し出口へ向かう。  それにつられて大男達も役目が終わったとゾロゾロと退室していく。   「………ぁ、ぅ、う」    サロメの為に贈られた白い花束が赤く滲んだ床に落ちていた。やがてそれらは涙でぼやけ、ちっぽけな復讐心の余韻を感じさせる。  復讐を達成して残ったのは、少しの晴れ間をすぐに覆った分厚い雲だったのだと。        
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