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「…え!?そうじゃないでしょ、兄貴はその件については関わってないはずだ」とイアンは予想外の回答に目を丸くした。彼はあくまでノエルは今回の事は無関係で、彼女を上手く関わらせぬよう誘導しようとしていたに違いない。
「ティアナ、勘違いしないで。兄貴はその友人には一切関わってないから。…ほら、兄貴もちゃんと言ってよ」
ノエルの肩を揺さぶる義弟の手が、ハエのようにパンと払われる。彼女はそれを否定と捉え、ノエルに対する湿った恐怖は鋭利な敵意に変わり、一瞬その目に父親の面影を映し出した。
「どうしようもないやつだって分かってたけど…ここまで落ちぶれてるなんて!」
「…」
「ッ何とか言えよ!!」
ティアナは反応を示さない男が何を考えているのか分からず声が震える。
しかしノエルの頭の中は目の前の彼らの先にウィリアム・ウィルソンが浮かんでいた。
彼がどうして王打会の人間にハンナの殺害を依頼したのか。イアンは嫌がらせだと言ったが、こんなにも簡単にネタばらし出来る嫌がらせを好んでするような男では無い。
では、何故自身の立場が危うくなるというのに実行に移したのか。拒絶しながらも体を許し、現状に甘んじているのか。
ベンチに這うナメクジのようにヌメヌメとした期待が湧いてくるのは全てウィルソンの取る行動のせいだ。
「聞いてんのかよ!!そうやっていつも私たちを見下してるんだろ!」
男勝りな少女は掴みかかる勇気までは無かったが、地面を強く踏み付ける事は出来たようだ。
「ティアナ!落ち着けって!」
「兄貴だけだって!この人のこと家族だって言ってるの!私達はそんな事思ってない!」
「なんて事言うんだ!今のセリフは聞き捨てならない!」
ティアナの暴走を止めようとしたイアンも徐々に感情的に振る舞う。
昔から彼らは仲が良く、しかし突然喧嘩を始める兄妹だった。そうなれば長引き誰かの仲裁が必要である。
つまり放っておけばいつまでも話が纏まらない。悟ったノエルは脳内の妄想を一度ストップして横に引っ張ったまま閉じた口を開く事にした。
「俺が"友人"にバレないように王打会の人間を解放する事はできると思う」
抑揚のない声にティアナとイアンはピタリと争いを止め、その間を吹き抜ける風がひゅうと鳴った。
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