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 右腕が砂埃が立った先の地面に転がっていた。だがその物体は直ぐにブヨブヨになってただの血溜まりになる。    バーナーで炙られているように熱く、神経をおもむろに束ねて乱暴に引っ張ったような痛みが右半身を支配しているので人間爆弾は成功したようだ。  巻き込まれた兵士達は爆発の衝撃と飛沫した男の血液の作用でその殆どが人からただの肉塊に変わっていった。     『―ウィリアム!!』    恐れる事無く彼は瓦礫を掻き分けて男を見つける。倒壊しかけた建物を覆った焔が死者を荼毘に伏す前に。   『ひ、…らき…来てくれたのか…』 『………』 『さ、寒い…』    力の入らぬ体を背負い、物言う事無く進む世界がどれ程美しいものだったか。    ザリザリと破片だらけの道を進み、そこらに転がる敵か味方かも分からぬ遺体。グチャグチャになった通いの店から上がる夕日の様な炎。黒煙の合間を割って差す太陽。    …温かい、血の巡る彼の背中は。    男は死というものに触れる度、自分が生きている実感を得ていた。だが彼のお陰でもう一度、もう二度…何度目かの死への恐怖を思い出したのだ。    いつか彼も死ぬ。それは自分が生きている事よりも辛い現実だった。       「やあ、ウィルソン君、調子はどうだい」    フェルトマイアー・GF(ジークフリート)はいつまでも動かない掃除ロボットを弄くり回すウィルソンにそう声を掛けた。    床に散らかった工具や巻き上がった埃、黒いオイルがどこそこに付着した部屋は男が格闘した証拠だが、それらのゴミや汚れを掃除するロボットは未だに直っていない。   「…監視役(ニイミ)はどこに行った?」 「彼には長時間監視を頼んでいたからね。休憩だよ」  ウィルソンはフェルトマイアーに一切の視線を送らなかった。ヒラキの事について約束を守らなかった男を"友人"と思えず、だからと言って一度懐に入れた相手をポイと捨てられない性分が邪魔をする。本人にはその自覚が無いだけにずっともどかしく苛立たしい。   「アーサー君はどうやら弟の所へ行ったみたいだ」    フェルトマイアーはウィルソンの感情など構うことなくソファーに腰掛けゆったり脚を組んだ。   「描くな」    サリサリ、と画用紙を滑る鉛筆の音にウィルソンは気がついて思わず床の工具を投げる。両手ほどのスケッチブックを取り出してデッサンを始めたフェルトマイアーは何かに取り憑かれたようだ。その姿は知り合った当初よりも衰えているが、人の感情を無視して夢中になるのは変わらない。   「描くなって言ってるだろ!」  声を張ってようやく彼は手を止めた。「ああ、申し訳ない」と形だけの謝罪をしてまた描き始める。   「…何が楽しくて私なんかを…」 「自分を卑下してはいけないよ。僕にとって君は一番のモチーフなんだ。」
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