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「まさかその為にわざわざ来たのか?」  ニコニコと目尻に寄るシワは敵意など微塵もないが、彼の絵のモチーフにされている時ウィルソンはいつも居心地が悪い。   「某衆議院議員の代議士がどうやら本格的な組織を立ち上げたようでね。君の監視が一層強まる事を言っておかないとと思ったんだ」 「…ミッドストリートにいる時にそれらしき連中に襲われた。」    消しゴムでゴリゴリと描いた線を消しながら「その報告は誰からも受けていないなあ。」と小言を呟く。    その後暫く無言の時間が続き、フェルトマイアーは描きあげたのか筆を置いた。   「もう終わったのか」 「うん、後はこれを元に作業するだけだよ。素晴らしい物が出来上がりそうだ」    満足気な彼とは違いウィルソンは小さく「裏切り者が」と罵る。   「あの子の事はしょうがないよ。君がサニー・ブラウンを"何故か"殺めようとしたのだから当然だ。組織に所属する以上自分勝手な行動を取ればそれ相応の罰を下す。…それとも僕が君に忖度して無かったことにすると思ったのかな?」    ぐっと喉の奥が締め上げられ、男は「そんなんじゃない」と掠れた声を上げた。実の所フェルトマイアーは今まで男の要望に応えていたので、今回だってどうにかなるのでは?とどこかで甘えが出ていたのだ。   「君はアーサー君が奪われる事が怖かったんだよ」    断定的な言葉はウィルソンの心の中までもほじくり返そうとする。違う、と否定しようものなら彼は首を左右にゆっくり振った。     「たかだかそこ数十年しか生きていないお前に何が分かる?」    必ずしも生きた年数と精神的成熟は比例しない。自覚はあるものの、ウィルソンは彼に対して子供じみた振る舞いをしてしまう。これもまた甘えの一つだろう。   「僕に言えることは君の体が、心が一番分かっているという事だけだよ。…じゃあそろそろ時間だから」    ソファーが軋み、ポキポキと彼の骨が音を立てる。シワの増えた手が優しくウィルソンの肩を叩いて"また後日"と言っている様だった。   「おっと、手を洗って服を着てきなさいね。流石にその薄着で外は冷えるよ」    ひょいと床に転がった工具を避けて彼はじっとその場に留まり続ける。   「……外?どこか行くのか?」 「コナー・オーウェルが君と話がしたいらしい。…退屈しのぎには調度良いでしょう。勿論監視役はいるけれど」    可哀想に、その後直ぐに監視役が疲れも取れぬままやって来るのであった。  
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