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   瞼に目やにがこびり付いて開かない。無理やりに開けようと思えば出来たが、彼はそうしなかった。   「…クソ!」    湿った土の匂いがすぐ側で香り、ジャリジャリとした感触が頬を刺している。腹からじんわりと温かい液体が滲み出して傷口が膿んでいるのではないかと気が気じゃない。   「おい!!誰かいないのか…傷が、開いたかもしれねぇ…」    光の差さない薄暗い部屋のたった一つの出入り口に向かって懸命に叫ぶ。だが連中は決められた時間に栄養カプセルと水の入ったボトルを放り込んで後は放置だ。時には解熱剤なのか抗生物質なのかよく分からぬ錠剤が差し入れられる事もあったがそれだけである。        ―スカンクら王国打倒委員会はサニー・ブラウン率いるデモ隊の粛清を目的としてミッドストリートの帝都ゲート前に集まった。それが我らが聖女の望むことだと思っていたからだ。   (…ああ、今頃酷いことになっているに違いない)    痛みの中彼は残された親しい友人のことを考えて狼狽えた。聖女は今回の計画の失敗についてきっと怒り狂っているはずだ。彼女は確かに皆の母親のように振る舞うが決して良い母とは言い難い。それが悪いという訳ではないが聖女の機嫌を窺う以外子供達に選択する余地がない事も確かだ。   「……ッ痛ぇ…」    反響を忘れた空間はスカンクに小さな頃のトラウマを甦らせる。    父親は気分次第で彼に思う存分暴力を振るうと数時間衣装ケースに押し込んだ。  母親はスカンクが物心がつく前にどこかへ消えたのでどんな人なのか知りえない。    生まれつきどこそこに白斑があるだけの彼に、『見た目のおかしいお前のせいで男を作って消えたのだ』と父は事ある事に言っていたので人格の形成されていない子供はそれを信じていた。    まだ"躾"と称していた方が幾分かマシである。父はスカンクを殺したいくらい憎いのだとハッキリ言い切ったのだから。    王国打倒委員会はそんな少年の居場所となり、唯一の避難場所だった。母を知らぬ子供にとって、不完全であっても母であることに変わりはないだろう。    盗みや暴力、…殺人に関してはやってきたつもりだが、今この状況を切り抜ける術がひとつもない。スカンクも所詮王国打倒委員会の子供達という訳だ。情けなくも今は蹲る事しか出来ず、大切な人が助けに来てくれると期待する。    彼がグッと奥歯を噛み締めた後、扉の向こうに騒がしい気配を感じ取った。  
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