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「ッ落ち着いてよ…、そりゃ恋人が殺されそうになってた事黙ってたのは悪い自覚あるから…。それで怒ってるんだよね?それともあの人の事?」
人の感情を読み取っているのかと疑いたくなる程イアンは察しが良い。何も物言わぬノエルに「…飽きれた」と溜息をついてドンと肩を押して距離を取る。
「あの人と話があってたまたま一緒に行動していた時があったんだ。…その時王国打倒委員会のメンバーの女の子にサニー・ブラウンの殺害をとある"条件付き"で承諾させた」
冷静に、分かりやすく義弟は説明を始めた。自分はただその場に居合わせ、計画の内容を知ってしまった事。そしてティアナの情報をウィルソンがチラつかせ、自分に協力するよう脅迫した事。…誰にもそれについて話せなかった事。
「でもオレは計画が未遂に終わったと聞いた時、これ以上関わりたくないって思ったんだ。だから全て断ち切ったつもりでいたけど…」
チカチカと部屋の間接照明が接触不良を起こした。ボーっと空調の音がノエルの耳にこびり付いたまま。
「…兄貴はあの人から何か聞かれた?例えば帝国警察の内情とか…」
「基本的にそのような事は外部に漏らさない。」
「…だよね。じゃああの人が勝手に兄貴の存在を彼女にチラつかせたのか…」
サニー・ブラウンの殺害など、彼が自分で行えば人に頼むよりも簡単な筈だ。イアンのいる場所で態々殺害計画を披露する理由も不明だ。
目的は明らかでは無いが、ティアナに王打会の人間を接触させるというのには意図を感じる。
「正直ほっとした、兄貴が関わってたらどうしようって。」
「…それはそうと何故お前の妹にその話が行ったか分からないな。」
『お前の妹』という言葉にイアンは眉をひそめて、しかしそれ以上追求することなく腕組みをして立ち尽くしていた。
「恐らくそれは嫌がらせだと思う。オレも兄貴もあの人にとってうまい具合に思い通りになってないから……」
「話は大方分かった。あいつにどういう訳か聞いてみることにしよう。それでいいか」
ノエルはイアンの含みのある言葉に対しては反応を示さず全て終わりにしようと締め括った。雨が酷くなる前に帰らなければ。どうせマンションの外にはノエルを待っている可哀想な監視役が震えているに違いない。
「待って!」
だがイアンは帰ろうとするノエルを止めて玄関への道を自身の体で塞ぐ。
「あの人にはこの話を言う必要は無いよ。オレが話がしたいって言ったのは兄貴が今回の事について関わっていないという確認と、ティアナが不死身の男に関与する事を止めさせる事だ」
真っ直ぐな目、それは唯一イアンとノエルの似ていないものだ。
「兄貴、ティアナを説得するのに協力してくれないかな」
最悪な事に、小雨から土砂降りに変わった。
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