愛する家族

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愛する家族

 時々、それがどちらの記憶だったのか分からなくなることがある。随分昔の事でただ曖昧な記憶なのか、もう一人の記憶なのか。  桜が風に煽られ散っていく。地面を流れるように花弁が踊り、二人の間を通り過ぎた。 「お前は大切な家族だ。…私はそう思っていいんだよな?」 男は昔から彼の事を家族だと言っていた。仲間や友人ではなく家族なのだと。それが今になって何故そのような事を言うのか分からない。  少し先に錆びたバス停の看板、桜まみれのベンチ、見慣れた青い屋根の家は売り出し中になっている。そこには幸せそうな夫婦が住んでいた。産まれたばかりの赤ちゃんを抱えてよくこの桜を見ていたのだ。 (ここ通る度羨ましいって思っていたな…あの子ももう家庭を持って…)  彼はいつか自分も家庭を持ち幸せになるものだと思っていた。 「…お前の人生をぶち壊しにした奴が家族と言っていいのか今更ながら葛藤していてね」    なんて、男は吐き出した。その言葉は吹かれる花弁よりも儚く感じる。    散々人を振りまわし、世界を二人だけの孤独にした癖にと彼は何百、何千回も心の中で責めていた。     「「俺は…自分で望んでそうしているから」」    それなのに誰がそう言ったのだろう。彼は自分の口から出た台詞をごく自然なものだと流した。頭の中の考えと少し違っていても、地面の桜の花びらのように流れるままに。    怠惰で穏やかな時間に、体がグッと地面に堕ちる感覚。たちまち鼓膜に突き刺さる爆音と頭上から降り注ぐ破片。  肌に突き抜ける痛みは本物で、周りは桜の花びらでは無く人々の死体にすり変わる。    "早く目覚めないと!"  "早く眠らないと!"    夢か現実かも分からず彼は敵の襲撃に身を潜め、音が止むまで縮こまっていた。   「―全く、君も難儀なこった」    ブツブツと遠くから聞こえる声は、爆音の中だと言うのにハッキリ聞こえる。   「…あ〜あ〜、数値もあまり芳しくないな。××は彼と違って存在するというのか。だから彼は代…を用…」    次第に音は嗄れた声だけになった。その人物が何を言っているのか理解が追いつかず、ただただ真っ暗な無の空間に閉じ込められている気がする。    ふとこれが死なのかと受け入れた時、ツンとした光が射し込んだ。   「………」    ぼやけた世界が鮮明になると、見知った老人が親指で分厚い牛乳瓶メガネを持ち上げる。   「おっと、………目覚めてしまったか。」    老人は彼を残念そうに見つめ、直ぐにそれがどちらか確かめた。   「君は志立啓(したでひらき)?それともヒラキ・ライト??」 「……………」  彼はあぐあぐと口をもたつかせ、石のように硬い腕を振り上げる。すると繋がれていた管がびっ、と伸びて鈍い痛みが襲いかかった。   
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