最後のお礼

6/10

44人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 呆然とソファに寄り掛かって目線を落とす……畳んだ、スプリングコートが目に入った。  薄いピンクのコート……これを着て、サークルのお花見に行って……確かに、お酒は飲んだけど……。  ぎくりとして顔を上げる。  彼女が着ているのは、分厚いセーター。窓の外を歩いている人たちもダウンコートを着て、寒そうに首元を押さえている……。  私だけ……季節が……止まってる……。 「……じゃあ……ほんとに、そうなんだ……」  赤川さんは黙って、カップのお茶かなにかを啜った。  匂いも感じないから、それが紅茶なのかコーヒーなのかも私にはわからなかった。 「……どうして、赤川さんは……その……私が……?」 「亡くなった小田島さんが見えるのかって? ――私が小学生のころ、いじめられてたのと理由は同じだよ」  ――あいつ、霊感があるってマジで言ってんだけど!  ――キモっ! かまってちゃん、うざーい。  あぁ、そういうことか……。  忘れていた……忘れようとしていた当時のことが、生々しく蘇る。  子供だからこその、手加減のない悪意だった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

44人が本棚に入れています
本棚に追加