最後のお礼

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 そこはぼんやりとして焦点が合わない。  子供のいじめなんて、これといった原因がないまま始まることもあるから、あの子についてもそうだったのかも知れない。だから思い出せないのかも。  ただちょっと気に食わないことがあったとか、鼻につくところがあったとか……。  彼女と親しくなかったのは確実で、それでも会ってみようかなと思ったのは、メールの末尾に書かれた言葉が気になったからだった。 『最後にお礼を言わせてもらいたいんです。』  そもそも、お礼を言われるような覚えがない。それに……。  最後。  絶妙に嫌な言葉だ。  最後……だとしたら。  彼女が元いじめられっ子だというのも、嫌な予感を増幅させる。  あれからもずっといじめられていて……この世に絶望していたとしたら……。    この誘いを私が断って、それが止めを刺すことになったとしたら。  あまりにも寝覚めが悪い。  半ば脅しのようにも思えるその言葉に、気がのらないながらも私は指定の待ち合わせに向かうことにした。
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