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「ちょ…、誰かに見られたら…」
「この寒い中、外にいる酔狂なのは俺らぐらいだろ」
「でも…」
「あのバカップルが、またいちゃついてるって思わしときゃいいって」
「…そこまでは言われてないよ」
いたずらっ子みたいな笑顔で、昂は私の唇を奪う。
彼は両の掌で私の頬を捉え、私は彼の腕にすがりついた。最初は優しく、しだいに深く口づけてくる彼のキスに、私の鼓動も体温もはね上がる。
温もりがとても愛おしくて、彼の腕を掴む指に力がこもった。唇を離す直前、ひときわ甘く私に触れると、彼は私を後ろから抱きしめた。
「ホント、熱がなきゃとっくに押し倒してる…」
「もうっ…」
守られている安心感に私は彼の胸に背中を預け、ふたりで星を見上げた。弾んだ白い息が夜に吸い込まれていく。
「向こうは凄い星の数だったよ。星座が埋もれてた」
耳元で聞こえる声はいつも私を落ち着かせてくれる。
「オーナーが会いたがってた。奥さんも心配して、明日の朝のためのパンをお土産にくれたんだ」
「あの自家製パン、食べられるの?」
「そ。よかったな」
いつもと同じ忙しない12月。
仕事に家事に翻弄されて、子どもに風邪をうつされて。
それでも素敵な家族に囲まれて、今でも変わらずに私を愛してくれる夫がいる。それを手にしている自分は幸せだと思った。節目の旅行は叶わなかったけど、また明日から新しい家族の思い出を積み重ねていこう。
さっきまでいじけてたのに、すぐに元気になれるのはやっぱり貴方がいてくれるから。
「寒くない?」
「ひとつくらい見たいな。お願いもしたいし」
「ねえ、ハコ。俺のお願い、何だと思う」
「…さあ。家族の健康、とか?」
「ハコといっぱいエッチなことしたい」
「…バカ。もう少しまともなのにして」
「じゃあ、ハコにそっくりな可愛い女の子が欲しい」
昂はそう言って笑うと、私の頬にキスをした。
その瞬間、青白い星の光がすっと流れていった。
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