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初めに体調を崩したのは次男の七星だった。
学童から一緒に帰宅した時は元気だったのに、食が進まず大好きなハンバーグも残してしまった。
「どっか痛い?」
「ううん…」
「今はないけど、お熱出るのかな」
七星はりんごジュースを少し飲むと、怠いのかうとうとし始めた。
この季節じゃ インフルか胃腸炎か…
小さな家族がいると飛び火は免れない。
明日はもう金曜日だから何とか乗りきれるとして、来週の仕事の予定を組み直さなければならない。
私はひとつため息をついて、子ども部屋のベッドの支度を整えた。
「俺は元気なのに」と言い張る北斗も一緒に寝かしつけると、玄関で物音がする。昂が帰って来たらしい。
「おかえり」
「あれ。二人とも寝たの」
「七星が元気ないの。熱が出るかも」
「そっか。この季節だもんな」
家族旅行は来週末の予定だった。
今回は流星群の極大日に合わせてるから、基本は変更なしだ。
せっかくだからご飯と温泉も堪能して、出費はかさむけど私も少し息抜きが出来るかと期待していた。
「ハコは大丈夫?」
昂は私の頭をぽんと軽く叩いて慰めてくれる。
恋人時代からの『葉子』に対する呼び名は、今や子どもたちも口にする。
「今のところはね」
「あいつらから来るウイルスは、防ぎようがないよな」
育休から復帰して6年。
あたふたしながらも何とかこなして来たのは、昂がいつもサポートしてくれたからだ。
「お。今日はハンバーグか」
「ご飯先に食べる?」
「ん。そうする」
キッチンへ向かおうとする私の腕を引いて、昂が私を抱きしめた。
「…何よ。いきなり」
「じゃあ、今夜は邪魔者はぐっすりってことだよな」
彼が意味ありげに微笑んで、私の頬が熱くなった。
「…子どもの具合が悪いのに」
「それならやっぱり今のうちだ。ちょっとご無沙汰だし、看病が始まったらムリだろ」
真面目くさって誘う彼に、私は吹き出した。
結婚してもずっと女として見てもらえるのは、幸せなことなんだろう。レスの話をちらほらと耳にする年代になり、恥ずかしくて口には出来なくても、お互いの欲求がすれ違わないことを私は嬉しく思っていた。
ふたりだけでゆっくり夕食を取り、お風呂も交代で入って、それだけで眠くなるくらいリラックスしている。子どもが兄弟ということもあるだろうけど、毎日がバタバタしていつも何かに追われているのだ。
「ハコ。おいで」
照明を落としたベッドの上で昂が私を呼んだ。
満ち足りた時間の後で、私はそのまま昂の腕の中で眠りについた。
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