絶えた技術

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 私は窓の外へ、目をやった。 「……もしかして、皆さんがお店の前に来るのって」 「ええ。以前のダイスケ様がいらしたときは、ちょうど戦争が終わりに近づき、介護の必要な人間が多く戦地から戻ってきたときでした。彼はその状況を見て、力を貸してくださったのです。歴代の異世界から来た方々は……人によりますが、その知恵や技術を披露した後に、帰られることが多いようです。もし、ショウコ様が早く帰るのにつながるのであれば、ぜひとも」  銀色の髪を前に差し出して、クヌーさんが言う。 「わたくしの髪をお切りください。見習いの身とおっしゃいましたが、この国では髪切りの文化がすっかり絶えてしまい、見習いにさえなれない者ばかりなのです」  クヌーさんは、きっと気が付いていたんだろう。早く帰りたい、と願う私に。  私はまだまだ、見習いの身。誰かの髪を切った経験はない。  カットした相手は、マネキンだけ。マネキンは、替えが効く。この世界なら、髪が勝手に伸びてくれる。  だけど。クヌーさんの髪は、元に戻らない。 「……失敗するかもしれません」 「よいのです。短い髪になれば、料理や掃除のときに楽ですから」 「……あの。ハサミを渡すので、自分で切るってのは……」 「それは……だいぶ、困ります」 「です、よねぇ」  私もできたら、髪は人に切ってほしい。そのほうが、見た目が良くなると思うからだ。 「……本当に、良いんですね?」 「ええ」  頷くクヌーさんに、私は両親と祖父母の顔を思い出す。  養女になった私の髪を切ってくれた、あの日。私もいつかこの人たちのようになる、そうすれば……本当の娘になれるんじゃないかって、思ってしまったあの日。  今の『理容師』という夢が自分の夢なのか。両親の夫婦の形に私は邪魔じゃないか。おじいちゃんとおばあちゃんは私が孫でよいのか。  まだまだ、悩むことはあまりにも多い。    それでも。みんなが胸を張れる、私でいたい。 「……任せてください」  気が付くと、そう、口にしていた。
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