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帰還の祭
帰りを祝う声が、空へ響く。響いた音は色とりどりの色紙になって、私たちの周りへ降り注ぐ。
神殿の高いところで、私は巫女様と一緒に、祭りを眺めていた。
「この度は世話になった」
「いえ! 私も……何にもしないママじゃ、嫌だったので」
頭を下げる私に、巫女様も頭を下げ返す。
何度か続けてから、私たちはお互いの顔を見て、笑ってしまった。
せっかくのお祭りのパレードだ。顔上げてなくちゃ、もったいない。
遠くから帰ってくる兵士……ううん。誰かの妻が、夫が、友達が、家族が、帰ってくる。
「夫婦になったものが、髪を伸ばし、願掛けをすると聞いただろう」
「はい、巫女様」
巫女様はその姿を見つめながら、優しく言う。
「だからな。髪を短くした相手というのは……結婚前の姿を想像させる。そう、ちょうど、恋をしたころ、初めての夜を過ごしたころ。戦争に行っていた兵士たちに、真に平和になったのだと、思い出させることだろう」
空に花火に似た鳥たちが輝き、乱舞する。
私はショウコ。まだまだ、アゼリ國での日々は続きそう。
だけどきっと帰る日には、お母さんとお父さん、そしておじいちゃんに、胸を張って言える。
ただいま、って。
その時だった。
「巫女様―! ショウコ様―!」
大声を上げながら、クヌーさんが駆け寄ってくる。
「大変です! お店に、突然、男女とご老人が現れて! ショウコ様はどこかと!」
「……まさか」
思わず私は、走り出していた。店へ向けて。風を突っ切って。
にぎわう街並みの中に、お父さんとお母さんが見える。おじいちゃんが居る。
「ただいま!!」
ただいまと言える場所。帰ってくると、信頼できる人。
結婚も夫婦も結ばれる形の一つ。私が今、信頼してただいまと言える相手が、待っている。
ちなみに。
私たち家族が元の町へ帰るのは、これからさらに何年か後なのだけど……。少なくとも、とっても良い日々だったのは、保証する。
おわり
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