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一通の手紙
目が覚めた。
昨日は霊を無理に祓ったため、体への負担が大きかったようだ。
まぁそのぶん、家主の面白い慌てっぷりが見れたから良いだろう。あれもちゃんとした『対価』だ。
昨日の家主の顔を思いだし、一人で笑う。
人間の滑稽な姿ほど面白いものはない。
外に出て、大きく伸びをする。
私の仕事は霊を祓うこと。そして、その仕事に見合う対価を貰うこと。
昔は周りの人々に見えない者とはなしていたため、気味悪がられて避けられる毎日だった。
今は逆にその周りの対応が功を奏す。
元々人は嫌いだ。わざわざ関わりたくもなかった。
私が好きなのは、小さな頃から話し相手になってくれていた霊だけだ。
あくびをしながらふと遠くを見ると、郵便屋が自転車に乗ってこちらに向かってきていた。
「ゆ、郵便です...」
郵便屋はこちらにきて、震える手で一通の手紙を差し出した。
「...ありがとう」
この私に手紙を出すだなんて、とんだ物好きがいたものだ。
郵便屋にお礼を言うが、さっさと行ってしまった。
普段は私宛の手紙なんてこない。
親でさえ、私とやりとりはしたくないのだからな。
手紙を開けてみると、一本のタンポポが手紙と共に入っていた。
なぜタンポポなのか。それはわからないが、とりあえず手紙の内容を見てみるとしよう。
首を傾げながら手紙を開いた。
「...え」
驚いたのは何年ぶりだろうか。
その手紙は、隣国の王、イドリア・アーサーからのものだった。
家に入り、手紙を読むことにした。
[拝啓 美佐子へ
君の噂はかねがね聞いている。霊祓いの仕事をしているそうじゃないか。実は、最近私の国で不可解な事件が起こっていて、霊媒師はそれが霊の仕業だと言うのだ。しかし、強力な力を持っている霊らしく、祓うのは困難らしい。
そこで、美佐子に頼みが]
そこまで読んで、私は手紙をビリビリに破いて捨てた。
怒りがふつふつと湧いてくる。
一体なんなんだ、こいつは。私の国で不可解な事件?私に頼み?知ったこっちゃない。私は隣国にまで行って、霊を払うような女じゃない。
これまで受けてきた依頼だって、隣国ほど遠い距離には行かなかったと言うのに。
この高圧的な態度。そして、美佐子といきなりの呼び捨て。
こんな手紙を書く奴の頼みなんて、死んでもごめんだ。
先程まで良かった気分が嘘のようだ。
私は怒りを拭うように頭を振る。こんな感情では、霊様に近づけない。
気を取り直して、家の掃除をすることにした。
後々、この手紙が人生に支障を出さなければ良いんだが。
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