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霊を祓うのは容易いが
目を閉じ、神経を研ぎ澄ます。
...いた。
目をゆっくりと開き、両手を合わせる。
「そこにおられる、女児の霊様」
私は歩みを進め、跪く。
「このような無礼をお許しください。私めのことはどれだけお恨みになっても構いませぬ。どうか、この屋敷の者達には手を下しませぬよう...」
跪いたまま、袖から塩をとりだし、振り撒く。すると、一気に霊様の気配が薄くなった。
ふう、とため息をつく。
(...家主のもとへ戻らなければ)
重い体をなんとか奮い立たせ、歩き始めた。
「ああ、美佐子様、ありがとうございます!ありがとうございます!」
家主は泣いて喜んでいた。
「女児の霊様だった故に、塩だけで弱まらせることができた。だが、私は本当はこのような荒い方法で霊様を弱くはさせたくない」
「その点は申し訳ありません。ですが、一刻も早く霊を消したかったもので」
「...そうか」
馬鹿な家主だ。私が霊様に許しを乞わなかったら、お前はとっくに今死んでいると言うのに。
「さて家主よ、約束通り霊は祓った」
「え、ええ」
「そちらも、約束を守ってもらわねば不平等と言うもの。さっさと家主の家に代々伝わると言う薬草を出せ」
「えっと...その...」
段々と青ざめていく家主を見て、なんとなく想像がついた。
「薬草を渡せぬと言うのか?」
「いっいえ、滅相もない!」
「そうか、ならば早くしろ」
家主はとうとう顔が雪のように白くなった。
こういうことはよくある。霊の怖さゆえに、ありもしない対価を差し出すと嘘をつき、祓ってもらう客があとを絶たない。
「私は嘘が大嫌いなのだ」
「もっ、申し訳ありません!どうか、どうかお許しを...!」
「人を騙しておいて、いざ窮地に立たされたとき、許されようと必死になって謝る。無様なものだ」
冷ややかな目で見つめると、家主は怯えたように尻餅をついた。
その姿を見て、ふっと笑う。
「まぁよい。嘘は憎いが、お前のような見苦しい姿は大好物だ。人という存在の醜さをよく表現できている。これからの人生もそうやって泥水をすすり地べたに這いつくばって生きるがよいさ」
家主に背を向け、歩き出す。
人間は醜く、時に見てられない行動をする。
しかし、それを見るのは私にとって至福であった。
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