10.甘すぎる新生活

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10.甘すぎる新生活

「――希和」 耳をくすぐる優しい声に心が弾む。 「悟己も起きているから、そろそろ起きて」 そっと髪を梳く指の感触が切なくて愛しくて、胸が詰まる。 私をこんな気持ちにさせる人は、世界にひとりしかいない。 でもその人とはもう会えないはずなのに……どうして。 悲しみに心が支配されるのが怖くて、急いで目を開けると、眼前に大好きな人がいた。 「どうした? 怖い夢でも見た?」 長い指が目尻に触れて、自分が泣いていたと知る。 「……惺、さん?」 伝わる体温に、混乱していた頭がゆっくりと覚醒し始める。 夢じゃない、彼はここにいる。 言葉にならない安心感と、あふれる想いに泣きたくなった。 「おはよう、希和……これからはずっと一緒だ」 私の心中を察したのか、ベッドの端に腰掛けた惺さんが私を覗き込んでキスをする。 ほんの一瞬、綺麗な目が悲しそうに見えたのは気のせいだろうか。 「お、おはよう。寝坊してごめんなさい」 「いや、俺もさっき起きたところだ。昨日は無理をさせたし、ゆっくり過ごしてほしいんだが……悟己が会いたがっている。一緒に朝食をとれそうか?」 そう言って困ったように眦を下げた彼が、私の額に小さく口づける。 「ありがとう、すぐ行くわ」 無理するな、と再度私に言い残して彼は部屋を出ていく。 ドア越しに微かに息子の元気いっぱいの明るい声が聞こえた。
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