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しばらく中庭を散歩してずっと花を見続けていた。葉っぱの緑も空の青さも、土の触感も全てが新鮮だった。
「アイラ様、申し訳ございません。そろそろお部屋に戻らなければなりません」
「うん……ねぇ、また来られる?」
「……それは、まだ、何とも申し上げられません」
「そう、わかった……戻る」
「はい」
中庭で束の間の夢のような時間を過ごして、自室に戻る。そしてまたチューブに繋がれる。いつも通りの日常。
「それではアイラ様、また明日参りますね」
「うん……おやすみなさい」
「おやすみなさいませ」
「……ねぇ、今日は、キスしてくれないの?」
「……小さい頃だけだったのでは?」
「嫌なら、別に……」
グレイは意地の悪い顔をしてどこか楽しそうにしている。
「嫌だなんてとんでもございません。頬でよろしいですか?」
「……グレイは、唇にもしたことがあるの?」
シルヴィアが、唇にキスをするのは最も大事な人とするのだと言っていた。それを聞いてシルヴィアにしようとしたら、そういうことではないとたしなめられた覚えがある。
「どうでしょうね?」
「……ねぇ、私じゃ……ダメ?」
にこやかな笑顔を浮かべていたグレイの顔つきが真剣に変わって、思わず息を飲んだ。グレイは私の顎を少しあげて、そして――。
「……秘密、増えてしまいましたね」
そしてまたいつもの笑顔を浮かべて、部屋から出て行った。
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