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「デートをしませんか?」
「デート?」
「はい。とはいっても、中庭でしか出来ませんが」
「よく分からないけれど、デート、してみたい」
グレイの提案でデートというものをすることになった。でもいつもと同じように中庭まで出掛けるだけで、デートというのがどういうものなのか、私には分からなかった。
「ねぇグレイ――」
「あの鳥のお姫様、どうして最近外にいるのかしら」
中庭には緑が茂っていて、場所によってはどこに誰がいるのか分かりにくい構造になっている。だからきっと、今の声の主もただ私の存在に気付いていないだけなのだろう。
部屋の外に出るようになって、グレイに連れられて中庭までの道のりしかお城の中を歩くことはなかった。たまにすれ違う他の使用人や、騎士と呼ばれる人たちが、私のことを「鳥のお姫様」と呼んでいることに気付いたのは最近のことだった。
部屋の高い天井の丸い小窓から一瞬だけ鳥という生き物が見えたことがあった。シルヴィアに教えてもらって、絵を描いて見せてもらったことがある。羽が生えていて、それで自由に空を飛ぶことが出来ると聞いていた。使用人たちが「鳥のお姫様」と呼んでいるのを聞いて、どうしてあの狭い部屋にいる私が自由に空を飛べる鳥と呼ばれているのかと不思議に思っていた。グレイにそれとなく理由を聞いたら、優しい笑顔とともに「気にしなくていいですよ」と言われてしまって、それ以上話を続けることは出来なくなった。たぶんきっと、良い意味で言われているのではないことだけ、私は理解していた。
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