ヒールとヒール

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ヒールとヒール

 週に一度中庭に出ても良いと言われるようになって気分はとても良くなっていた。グレイとの関係も良好で、この狭い世界で少しだけだけれど確かな幸せを感じていた。  私は気分が良い時間が続いて、気が大きくなっていたのかもしれない。グレイが部屋を出た後に付いて行きたいと思って、ちょっとした冒険をしたくなってしまった。   「今日はよろしいのですか?」 「うん」  中庭へ出掛けるのを断ったのは、この部屋から出る時間を夜に回すことが出来ないかと思いついたからだった。部屋には魔法によって鍵がかけられていたけれど、シルヴィアの内緒話の中にはこの魔法の解き方も含まれていた。私は“先生”たちにはヒールしか使えないフリをするという秘密を持っていた。 「――では、おやすみなさいませ」 「うん、おやすみなささい」  今日もまた、おやすみのキスをして、グレイが部屋から出て行くのを見送った。いまだにキスをされるのは胸がドキドキとしていたけれど、今夜はそれ以上の緊張を纏っていた。 「えっと、確か……こうやって……」  部屋のドアに近づき手をかざす。鍵を壊すイメージではなくて――。私の適性はもちろんヒールであって、それ以外の才能は特に攻撃的な魔法に関して言えばさっぱりだった。だからシルヴィアは十数年の時間をかけてゆっくりと着実に“私が身を守る魔法”を教えてくれた。 「……出来た」  鍵にかけられた魔法を構築し直した。私だけが出られないようになっている魔法がかけられているとシルヴィアに聞いていたドアを手で押すと、ゆっくりとそれは開いた。
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