ヒールとヒール

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 いつも中庭に連れて行ってもらえる時間の限界は二時間だった。初めてだから今日は少しの時間だけにしようと心に決めて部屋を出た。  シルヴィアに教わった魔法は鍵を開けるための魔法と、気配を消す魔法だった。気配を消す魔法に関しては“いつか”の為です、とだけ言われていて、シルヴィアが居なくなった今はその”いつか”は分からないままになっていた。  魔法の完成度はシルヴィアから太鼓判が押されていたけれど、部屋の外で実践したことなんてなかったから、緊張しながらも恐る恐るグレイの後を付いて行った。  グレイが私とヒールの継承の実験をしている以外の時間を、どう過ごしているのかを教えてくれることはなかった。何も教えてくれないからこそ、バレてしまった時の不安より好奇心が勝っていた。私の知らない恋愛を教えてくれるというグレイ自身のことは知らないことばかりだった。そんなの、嫌だった。   「っ……!!」  やけに人が居ない場所へ進むと不思議に思いつつグレイの後をついて行った私は、グレイが立ち止まり話している相手に気付いて、思わず声を出しそうになった。慌てて口を手で抑える。動揺して自身にかけた気配を消す魔法が解けそうになるのを何とか持ち堪えた。 「グレイ、計画は順調なのかしら?」 「はい……女王様」  女王様、と呼ばれた華美なドレスを着た妖艶な女性。それはたった数回しか会ったことのない、私の母だった。
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