鳥と使用人

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 数週間経ってもグレイと手を繋いで内緒のお話をしているだけの日々が続いていた。 「グレイ……このままで本当に大丈夫なの?」 「申し訳ございません。早くこの部屋からお連れしたい気持ちはあるのですが……こうして手を触れて、あなたの魔力を感じるのが一番の分析になるのです。もうしばらくお付き合いいただけますか?」 「気を悪くさせてしまったらごめんなさい。急かしている訳ではないの。ただこの実験が進まないと、あなた自身は大丈夫なのかと思って」 「私自身がですか?」 「その、立場とか……あの先生と呼ばれる人たちが優しい人たちだとは、私には思えなくて……」 「お心遣いに感謝いたします。ですが私はただの実験道具の使用人です。アイラ様のご心配にはおよびません」 「私も実験道具みたいなものだよ……」 「そのようなことをおっしゃらないでください。アイラ様はこの国で最も大切なお方なのですから」 「……私じゃないよ。大切なのは、私のこのヒールだけ」 「では、私がアイラ様を大切に想いましょう」 「……どうやって?」  グレイは繋いだ私の手の甲にキスを落とした。それとなく恋愛のことはシルヴィアから聞いていた。夫となる人との出会いから、子どもが出来た時のことまで。あまり理解できていない私に対して経験した方が早いとシルヴィアは微笑んでいた。   「な、何をしているの⁉」  キスは特別なものだと聞いていたのに。私の反応を見てグレイは少し驚いた後すぐに納得した顔をしていた。 「あぁなるほど、意味を知らないのですね。落ち着いてくださいアイラ様。これは忠誠のキスです」 「忠誠……」 「そうです。私があなた様を想っている、という意味のキスですよ……不快でしたか?」 「そんなこと……ないけれど……」  手の甲にあるグレイの唇の感覚が無くならない。運動をした訳でもないのに鼓動が早い。顔が、体に集まる熱の意味が分からない。私にはこれらの現象が、自分の体のことなのに、何も理解が出来なかった。
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