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「――アイラ様?」
「な、何⁉」
今日もまた椅子に座り、目の前で膝をつくグレイと手を繋いでいた。ただ前と違うのは、私が落ち着いてグレイと会話が出来なくなってしまったということ。
「気になりますか?」
「な、何が?」
「ここ……」
グレイは私の手の甲を撫でた。昨日、キスをされたその場所を、愛おしそうに親指でなぞっている。私はその指の動きから、目が離せない。
「申し訳ございません。出過ぎた真似をしてしまいましたね」
「いえ……大丈夫……あなたの気持ちは嬉しかったから……そうだ、思い出したの……シルヴィアもね、私が小さい頃は寝る時にキスをしてくれたの」
そう、シルヴィアも私にキスをしてくれていた。一人で眠るのが寂しくて泣いていた私をあやすように、おでこにおやすみの意味のキスをしてくれていた。きっとグレイもシルヴィアと同じで、私に対する優しさで、キスをしていたのだろう。初めて手の甲にキスをされて動揺してしまって、グレイを困らせてしまったことを反省した。
「ごめんなさいグレイ。気を遣わせてしまって。ちょっと休憩をしない?この前いただいたお紅茶はまだあるかしら」
「はい。ではご用意いたします」
その後は普段通りグレイと過ごしていられた……のに。
「――ではアイラ様、今日はここで失礼いたします」
「お疲れ様グレイ。また明日ね」
「はい。では、おやすみなさいませ」
「え⁉何をしているの⁉」
グレイは私の頬におやすみのキスをした。私は驚いて大きく体をのけぞった。お休みのキスはシルヴィアからもされていたのに、どうしてグレイからされるとこんなにも動揺してしまうのだろう。グレイは驚く私を見て不思議そうにしていた。
「シルヴィアからされていたと伺いましたが?」
「そ、それは小さい頃の話って言ったでしょう⁉」
「あぁ、そうでしたね、失礼いたしました。それでは」
謝りはしたけれどグレイは笑顔で、私の反応を楽しんでいるようだった。きっと彼は何の反省もしていないと分かっているのに、何故か憎めなかった。
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