籠の中の鳥

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籠の中の鳥

 高い天井の丸い小窓から光が差し込むこの部屋が生まれてからずっと私の唯一の居場所だった。天蓋の着いた大きなベッドと、華美なテーブルとイスとクローゼットと本棚、そして化粧台だけがあった。食事をいただく時だけ開かれるドアの先を見たことがなくて、小さい頃は進んでみたいと思うこともあったけれど、身体に繋がれたチューブが外れたら死んでしまうと言われてからは考えることもなくなった。  私の体に繋がれたいくつものチューブはこの国を支えるための重要な役割を担っていると聞いていた。教えてくれたのは使用人のシルヴィアだった。シルヴィアは物知りで綺麗な大人の女性で、おそらく母親というものはこういう人のことを言うのだろうと思っていた。物心ついた頃から私の話相手にだったシルヴィアはよく内緒話をしてくれた。私はその内緒話が大好きだった。 「これは私たちだけの秘密のお話ですからね」  シルヴィアが話してくれる秘密のお話は刺激的な部屋の外のお話だった。私が知っているのは昔与えられた絵本の中でしか見たことがない世界だから、シルヴィアが言う木や森、川や海、人や動物のお話全てが刺激的だった。 「いつか“本当の世界”を見せてあげますからね」  それが話を終えた時にいつも言うシルヴィアの言葉だった。私の世界の全てであるこの部屋は、嘘の世界なのだろうか。
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