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⑥守銭奴騎士団長
「ま、その呪いのお陰で印はわたらずに済んだのだ」
「まぁ、終わりよければなんとやらかもですけど」
「ふむ……。金にがめついこの男だからこそだな」
つまり金に負けたってことかこの男。
「だからよぉ……?な?約束の報酬寄越せよ……?じゃなきゃ成仏はさせてやんねぇからなあぁっ!?」
ひぃっ!?やっぱりこの男こそが諸悪の根源なのでは……っ!?
「アンタどんだけ鬼畜なのよ……!そもそも、爵位持ちだから国からきっちり毎年お金もらえるし、騎士団長の給料も出てるのでは……!?」
「金はあるだけあるにこしたこたぁねぇ」
おいおい……!
「ほれ、これはそなたに」
国王が与えたのは……光輝く何かだ。
「ふ、ありがたくもらってくぞ」
そう言って一瞬瞼を閉じた騎士団長……。何だか不思議な光景を見せられているようだけど……再びすうっと目を開けた頃には……何故かその左目が金色を帯びていた。……あれは一体……?
「ま、それはいいが。その、娘をもらって行くんだ。爵位と地位捨てるなよ?」
「せっかく手に入れた金蔓爵位と地位捨てるわけねぇだろ。あと、アルヴィンに給料も増やさせるからナァ……?」
やっぱりがめつすぎるぞこの男。
「それは……アルヴィンに任せる。……その、お主よ」
「あん?何だよまだあんのかそろそろ永遠に還らぬ骸にすんだからとっとと言え」
何つー脅しだそれぇっ!!
「イェディカを、幸せにしてやってくれ」
……っ!
「……お、おとぅ……」
さまと、最期に呼んであげたかった……のだが。
ぐしゃりと崩れた。
騎士団長の拳で国王はぐしゃりと跡形もなく崩れたァ――――――っ!!?
「成仏しただろ。したな、よしっ」
「全然よしじゃないわよ。どうしてくれんのこの後始末」
……と、言うところで。
「終わったのか?国王の骸はもうないようだが」
魔法師団長。
「王の証は届いたよ……。国王は何か言ってた?」
続いてアルヴィン。
「団長、話は最期までさせてあげなよ、鬼畜」
と、部下さん。いや、部下さん何か見抜いてる!?この男の鬼畜の所業見抜いてるぅ!?
「俺は手に入れるもん入れたし、帰る!酒!」
ダメだこの男。もうここに用はない的な感じで酒に逃れようとしてるぅっ!
……そう言えば……っ!
「酒乱……」
「大丈夫だよ、お嬢さんには絡まないと思うから」
いや、部下さん、その保険はどこからおりるんですか……!?
「あとはお前らでやれよ」
「いや、ちょ……勝手に終わりにしないでくださいよ、オリヴェルさん。……王城の酒蔵から好きなの好きなだけ持ってっていいから」
アルヴィンがそう告げれば。、
「マジで!?酒酒秘蔵酒絶対いるぅ――――――――っ!」
ほんとダメ騎士団長だ。
※※※
――――――王城、酒蔵。
「これとこれと、あとこれもぉっ!」
騎士団長は上機嫌で酒をマジックボックスに格納していた。いや、マジックボックスまで持ってるって危険にもほどがあるじゃないの……!
「ちょっと、騎士団長」
「……」
「なぁに?」
馴れ馴れしかったかしら。でも、なぁ……?
「ナルでいい。イェディカ」
「……えと、ナル?」
ごく普通に私の名前を呼んでくるし……。まぁ一応結婚したのよね、私たち。そしてナルはオリヴェルの愛称だ。
まぁ名前で呼び合うのはいいけれど。
「……全部持ってくつもりじゃないでしょうね」
呆れながらナルに問えば。
「あ、その手もあったな!」
「いや、やめなさいよ……!」
「あのー、おふたりさん?アルヴィン殿下の準備整ったから来てー」
「あ、部下さん」
「セシル・ヨハンです」
「セシルさん」
ようやっと部下さんーーセシルさんの名前が分かった。
「準備って、何ですか?」
「殿下が陛下になる準備」
「あぁ……っ」
そうだ。アルヴィンは王の証を受け取ったのよね。
「国王になるには証が必要だったのね」
「後継者に伝えられることだけどね。国宝を扱うために必要なんだ」
国宝……?それも特に知らないわね。嫁ぐ身の上だからかしら。でも脳裏にちらりと、あのステンドグラスの金色が浮かんだ気がするのだけど。
セシルさんと話していれば、不意に顎をくいっと持ち上げられる。
「……ナル……?なぁに?」
「……別に?」
別になら何故!?しかもジーッと見つめられてるの何で!?
「団長、焼きもちしないの」
焼きもちなのこれ何なのこれっ!
「酒たくさんつめたし、俺ァ帰る」
「いや、騎士団長なんだから付き合って。新しい近衛騎士団長も任命されるんだから」
「新しい騎士団長?」
「そうそ」
セシルさんに連れられて行けば、そこには。
王冠を被り皆に歓迎されるアルヴィン、そしてその側近になるのであろう魔法師団長、そして突撃の際出会った女性……近衛騎士団長がいた。
「彼女が?女性の近衛騎士団長なんて快挙じゃない!」
女性の近衛騎士だって、女性王族のための狭き門なのに。
「ん?あー……、俺の推薦」
「えぇっ!?」
まぁこんなんでも騎士団長だし……?この男が認めたなら……彼女は相当な腕なのね。
「見たし俺還る酒ぇー」
全くこの男は……。
「でもツマミくらいなら……」
作ってもいいかしら。いつしか食事も振る舞われなくなったから、こっそり自分で作って食べてたし。
そう、ふわふわと思っていれば、その場に場違いな叫び声が響いた。
「その男は偽王だ!この国の王になるのは、私だぁっ!」
そう……騒いでいたのは。
「王太……いや、どう呼ぶべきかしら」
「罪人クサレハゲじゃねぇの?」
「あなたはまた……」
何つー愛称つけてんのよ……。まぁ……いいけど。
元王太子のイーサンは既に捕縛されており、暴れながらも近衛騎士たちに連れられていく。
「心配しなくていい。あれは処刑行きだ」
と、アルヴィン。
いや……もう、陛下?
「あの……へい……」
「兄とは呼んではくれないのか?たった2人の肉親だ」
たった……2人。そうかも。
「お兄さま」
「あぁ、嬉しいよ。イェディカ」
和やかに話していれば、不意に腰に腕を回され、持ち上げられる。
「ちょっ、ナル!?」
「飽きた、帰るぞ」
いや、飽きたって……っ!?
「早く秘蔵酒飲みたい。……ツマミは……?」
「うー、分かったから下ろしてよ」
「こっちの方が早い」
そりゃ私の歩くペースよりは早いかもだけど、持ち方ぁ――――――っ!
「暫く忙しくなるかもしれないけど。またいつでも会いにきて、イェディカ」
「……はい、お兄さま……!」
お兄さまに手を振っていれば、ナルはどこか不機嫌そう?
「嫉妬深いんだからー」
セシルさんが笑う。
嫉妬深い?何に嫉妬したのかしら?この守銭奴強欲酒乱暗黒騎士団長が。
さらに称号増やしてどーすんのよ。全く。
※※※
――――――――シルト伯爵邸
「……それにしても……あなた女嫌いじゃなかったの?」
ナルはここの他にも、騎士団の詰め所にも部屋があると言うが、闇魔法で繋げているので行き来は楽らしい。なお、破壊された国王の寝室まで闇魔法で行き来できなかったのかと言えば……あそこには特殊な結界があるからでかなかったんだとか。なお、扉は破壊されているので現在リフォーム中、お兄さまは別の部屋で寝るらしい。
そしてその伯爵邸はこぶりでも、アットホームなものだった。
リビングで酒瓶片手にジョッキに継いでいたナルにツマミを出しながら問う。
「私とも結婚したのよね。近衛騎士団長だって推薦してくれたし」
「嫌いとは言ってねぇけど」
「……じゃぁ何でその噂が……?」
「さぁ?」
そう言ってナルはツマミをぱくりと食べながら酒をあおる。やっぱり女性に対しても口が悪いせいだろうか……。
私も簡単なツマミを食べながら……私は炭酸ジュースを飲んでいれば、伯爵邸の家令であるヴィルが客人が来たと報せにくる。少ないけれど、使用人もいるのよね。
一応伯爵で、土地も持ってるらしいし……。
そして訪れた客人は。
「や、お嬢さん」
「セシルさん!?どうして……」
「いやぁ、団長ひとりで飲んでて寂しいかなって~~」
ヘラヘラと笑うセシルさんに対し……。
「てめぇは酒もらいに来ただけだろ」
「いいじゃんいいじゃんー」
「ふん」
とは言いつつ酒は分けてくれるんだ。やっぱり割りと優しいところがある……?
「あ、そうだ……あの、ひとつだけ疑問が残っているんですけど……」
「どうしたの?お嬢さん」
「あの……セシルさんって……どうして魔法で髪と目の色を変えてるんですか?」
「ぶふぉっ!?」
吐いた!?
「てめぇ汚ぇ、酒がもったいない」
「そこなの?ねぇ、そこなのかな?まぁいいけど……この変装見破るなんて……やっぱりお嬢さんはすごいねぇ。アルヴィンと魔法師団長も分かるけど……団長に続いて4人目だ」
そう告げれば、セシルさんの髪と瞳が赤く変化する。
「あの……フレイア公爵ですよね」
その人こそが……ヴィンセント・フレイア公爵だ。
そして今ならこの方が闇だけではなく、炎の魔力も持っていることが分かる。
「そうだねぇ。そう言う一面もある……けど、俺はもともと団長の部下だったからねぇ。公爵になったのは、その後だから」
「じゃぁ……セシルさんって言うのは……」
「そっちが本名。ヴィンセントは不本意な貴族名」
不本意なんだ……。
「でも、そのお陰て楽しいこともできたからさぁ」
それって……入れ換えのことだろうか……やったことだいぶきな臭いのだけど。
「イェディカ、ツマミなくなった……お代わり」
「……はーい!」
何だか両手で皿を差し出してくるナルがかわいいのだけど。
「酔わない」
「そう、酒乱のくせに酔わないから」
セシルさんが笑う。
なのに酒乱って呼ばれるんだ。
ツマミを補充してくれば……。
「騎士団の飲み会ん時、すごいんだっ!」と、セシルさんがこっそり教えてくれる。
「余計なこと言うなよ」
「言わないよ、後が恐いから――――」
後が恐いって……一体何する気なのやら……。しかし……。
「悪くはないかなぁ……」
色々なことを諦めていた政略結婚は……案外穏やかな夫婦生活である。
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