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⑪王城での聖女と騎士団長
――――――こう言う場は……苦手だが。
しかし本日は新たに即位したアルヴィンお兄さま、そしてその妃となったアデラお義姉さまを祝福するパーティーなのだ。
だがこの瞳は奇妙には思われないだろうか。こんな大勢の前でさらけ出すのは久々だから。それにドレス姿だって……幼い時以来である。
顔立ちの整っているナルなら……きれいに映るのだろうが。
隣のナルをジッと見つめて入れば、ナルの瞳が私を捉える。
「あ……ごめんなさいっ」
ジッと見つめてしまった。……と言うかこう言う場なのに、ナルは相変わらず騎士団の制服だ。騎士団にも礼装があったはずなのだが……。
何故……と思っていれば。
くいっ
「ひゃっ」
ちょ、顎くい!?また、顎くい……!
そしてナルの左だけが金色のオッドアイが私を見つめている。しかもシャンデリアの効果か、いつも以上に何と言うか……ロマンチック……?
「いや、お前らこんなところで……」
呆れたような声がしてハッとすれば。
「まぁ新婚ホヤホヤなんだし」
ニヤリと笑うセシルさんと共に魔法師団長さままで……!?
さらにセシルさんは騎士団の制服ではない……?しかも……。
「今日は公爵さま……?」
「そうそう。さすがに今日はこっち~~」
へらへらと笑うところは相変わらずなのだが。赤い髪に赤い瞳はフレイア公爵としての姿。装いだって明らかに高位貴族と言わんばかりの立派な礼装である。
「でも顔は大丈夫なのですか……?さすがにセシルさんってバレるんじゃ……」
「見るひとには似てるとしか映らないよ。一応闇魔法で魅了してるから」
魅了魔法って禁術では……!?そしてそんな使い方があったとは。しかしそれでも、国の……王家の影を務めるフレイア公爵なら許されるのだろうか。まぁ、アルヴィンお兄さまはセシルさんの正体もちゃんと知ってるけど。
「俺が俺として見えるのは、イェディカちゃんを含めて限られた人間だけだよ」
にへらーっと笑うセシルさん……フレイア公爵の隣の魔法師団長さまもそのひとり。フレイア公爵を呆れ顔で見つつも『ま、お前らだもんな』と諦めていた。そのお前らの片方は確実にナルである。
「……と言うか、お前その服で挨拶に言ったのか?アルヴィンとアデラ……いやここではアデラ妃か」
魔法師団長さまがナルの制服を見て改めて告げる。
「挨拶には……えぇ、行きましたね……」
挨拶に行った時には『遠慮なくお義姉さまって呼んでね』といつものように微笑んでくれた。お兄さまも驚かせたようだと苦笑しており、そしてアデラお義姉さまとは相性もよさげで、妹としても安心できた。そして……。
「まぁその……ナルだから、と」
2人ともさすがに……分かっていた。
「いやまぁ、そうなんだが。普通に礼装で来た騎士団員たちが微妙な顔してたぞ。……お前のところの副団長が特に睨んでただろ」
騎士団員たちの中には平民出身が多いが、やはり貴族の子弟もおり、この場ではさすがに騎士団の礼服だった。そして団長の遠征中は王都で留守を守っているの副団長にも挨拶をしたっけ。
確かに視線が鋭かったかも。
こう言う場でもブレないのがナルだが。
「……でもやっぱり、ちょっと見てみたかったかも」
ナルの珍しい礼装。
今度はナルがジッと私を見る。
「あ……そうか。イェディカちゃん作戦をとれば良かった……!」
「魔法師団長さま!?何ですか?私作戦って……」
「てめぇ……育毛ポーションに不毛の呪いかけるぞ」
「そ、それだけは……っ!」
魔法師団長さまが驚愕する。またナルはそう言うことを……。
「あ、そう言えばあの育毛ポーション、どうだったの……?」
「あぁ……あのポーションは効果覿面だ。使った後に更地にしたがナァ。ククッ」
ナルがまたゲスい笑みを浮かべる。
「まぁ……効果があったのは嬉しいが……お前一体何で実験したんだよ」
「そこら辺の貴族捕まえて金貨ハゲとか作らないでよ?」
「金貨ハゲも捨てがたいが……今回はアンデッド作ってやったからナァ~~」
あのネクロマンサー魔法か……っ!
「でもナルの作るアンデッドってフサフサではっ!?わざわざ毟ってからやったの……!?鬼畜すぎない!?」
また称号が増えるわよ!
「ふ……っ、王家から仕入れた素材で作った特製アンデッドだ。あれは何しても王家公認のシロモンだ。あと他にもいろいろたくさん試したし……くふっ」
まさかこいつ……処刑されたあの3人のアンデッド作ってないわよね……?いや、やらないわけがなかった!この男が……っ!
処刑だけでは終われない。死してもネクロマンサー魔法で蘇らせるとことんゲスいこの男だもの。この男を敵に回すべきじゃない。
「……まぁ成功したなら何よりだ!」
そして魔法師団長さまもなりふり構わなくなってる……!?
「またできたら是非魔法師団に……いや、侯爵として直々に買い取らせてもらう……!」
しかも侯爵として……!?
「と言うかそんな会話この場でしていいの?」
「闇魔法で攪乱してる。へーきへーき」
と、セシルさん。うわっ、抜かりない……!
しかし、場違いな者は湧いてでるもので。
「聖女さま!」
この間とは違う神官だ。
「辺境の地での御活躍、我々にも届いております!神殿としても誇らしい!」
今回の遠征には神殿は関係ないのだが。
「そのお力は神殿でも使われるベきです!王都での聖女さまの慈善事業も計画しましたので……!」
はぁ……??
「おい、おめぇら……」
そしてナルの不機嫌そうな声が聞こえたその時だった。
「あなたたちは何をされているのですか」
厳かな声が響き、神官はびくんと身を強ばらせる。
「聖女さまは神殿には属さない。神殿から過度な接触や強引な勧誘は、陛下が禁じられたことですよ」
明らかに高位な神官と見られる男性が告げると、目の前の神官はばつの悪そうな表情になる。
「陛下のいらっしゃる場でよくもそのような。あなたは、破門です」
「そんな、ひどすぎる……!」
神官は抗議するが、騒ぎを聞き付けた近衛騎士たちがその神官を拘束する。
「神殿が犯した罪をも理解していないのですか。理解していれば、どちらがひどすぎることをしたのか、分かるはずですが」
まさか高位な神官からその言葉が出るとは。お兄さまが神殿上層部を入れ換えてくれた効果……!
「連れていけ」
駆け付けてきた近衛騎士団長の冷たい言葉を皮切りに、近衛騎士たちは容赦なく神官たちをこの場から退出させる。そして近衛騎士団長が来たと言うことは。
「無事かい?イェディカ」
「お兄さま!」
お兄さまと、そしてアデラお義姉さまも一緒だ。
そしてお兄さまたちの登場に高位な神官が頭を下げる。
「申し訳ありません。陛下の命がありながら、まだあのような言動をとるものがあろうとは。あれは確実に破門しますので、この国のどこの神殿関係施設でも出入りはできなくなります」
「あぁ、徹底的に頼むよ、神官長。君には期待している」
え……神官長――――っ!?
「聖女さま。また大変な失礼を。今までの神殿の所業を含め、神官長として謝罪いたします」
そう頭を下げる神官長。
以前の神官長なら、信じられなかった。
「彼は私が直々に辺境伯領から招いた信頼のおける神官だ。安心していい」
お兄さまの采配なら安心だけど……。
「辺境伯領って……」
「えぇ。私は長年、辺境伯領に飛ばされて神官を務めておりました。ですので聖女さまが自らお足を運び、辺境のために尽力してくださったこと、とても嬉しく思います」
飛ばされて……彼もまた、【まとも】だったから左遷されたのだ。そしてお兄さまが呼び戻した。
「聖女さまには王都に囚われず、自由に羽ばたいていただきたい」
――――――自由に……。
「我々から聖女さまに王都の慈善事業を含め、要請することはありません。あなたさまからの信頼を回復するまでは」
「まぁ……その、騎士団の炊き出しには参加しますので」
騎士団も王都で炊き出しをしているから。何だかんだでナルが私を騎士団の治療班として団に組み込んでたしね。
「ご活躍、楽しみにしております」
「……私も、神殿が生まれ変わることができるのを願っております」
そう告げると、神官長は『必ずや』と答えて去って行った。神殿も……変わろうとしているのね。
お兄さまもアデラお義姉さまも満足げである。
そう言えばナルは……。
そして突如腰にぎゅっと巻き付いた腕が誰のものかは分かっている。
「あの魔方陣は……敬意を評する」
いや、確かにそうだけど!神官長そうだったけど!
「あぁ……くぅっ」
魔法師団長さまは相変わらず何で涙ぐんでるの!?
そしてさらには……。
「さっきのカッコよかったね~~」
「うるさい、公の場でへらへらするな。今の顔は公爵だろう。私は任務に戻る」
フレイア公爵の姿のセシルさんを冷たくあしらい、お兄さまたちと壇上に戻っていくのは……。
「近衛騎士団長とセシルのことを……」
知ってるの……?
「あぁ、それは……。夫婦だからかな」
「……え?」
「彼女が中枢に戻るための身分があれば、なおのことよしだろう?公爵夫人の盾があれば無敵だと言うことでね。政略結婚ではあるけど、私は強く逞しい女性は嫌いじゃないからね」
近衛騎士団長に注意されたからかいつもとは違う口調でしゃべるフレイア公爵のセシルさん。
「……はいっ!?」
そのためにとは言え、そことここが結婚するなんて……予想外すぎる。いや、ある意味いいコンビだと思うけど……!!
しかし表面に塗ったくった仮面はすぐに取れてしまったのか。
「さすがにフレイア公爵がずっと独身だと縁談がひっきりなしで忙しいし、それなら政略結婚に乗っかるのもいいと思うんだぁ~~」
またいつものヘラヘラ笑みを浮かべていた。
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