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③性悪騎士団長
「何だ、お前ようやく来たのか?ハゲ」
またこの騎士団長は……!ハゲは万人に使える便利呼び掛けじゃないのだけど……!?
「誰がハゲだ……!私はまだハゲてない……!」
……そこかよ。でも、今までハゲと言われた王族貴族に比べたら、騎士団長の態度が軟化しているような気もする。
「とにかく、彼女にポーションを!」
え……私に?ポーションを……。今まで痛め付けられても、ポーションをもらったことなんてない。
「寄越せ」
ぱしゅっ。
ちょ……騎士団長、その……ハゲてないハゲさんからポーション奪いとったぁ……!?
「いや、おい、乱暴に扱うな、それはハイポー……」
ばしゃりっ。
今、ハゲてないハゲさん、【ハイポーション】と言おうとしなかった!?そんな高級品を、私に……!?
しかも騎士団長が飲ませるわけでもなく、傷口に丁寧にかけるわけでもなく、私にバシャリと振りかけたのだ。
「お前なぁっ!?もう少し……っ」
ハゲてないハゲさんが絶叫する中。
「もう自分で立てるか」
騎士団長が私の腰から腕をほどく。
「まぁ……、うん」
痛みも今までの疲れもとれたように、まっすぐと、地に足をつけて立てる。それに髪もパサパサなものからさらさらに戻っているし、肌の艶だって。
こんなの……本当に久しぶりだわ。
しかし久々すぎてちょっとよろけてしまう。だが何故かその瞬間、騎士団長が背中を支えてくれたのだが。
割と、優しいの……?口は最悪だし、ひとの運びかた荷物扱いだしポーションぶっかけて来たんだけどこのひと。
まぁ気を取り直して。騎士団長の隣には騎士団の制服を着ている茶色の髪にオレンジブラウンの瞳の青年……なのだが、ちらちらと赤い色がちらつくのは気のせいかしら。魔法で色を変えてる……とか?でも、何のために。そこは分からないが。
次に意気がってるクロードと嘘泣きをまだやってるローズマリーには興味がないのですっ飛ばして。
騎士団長にハゲと呼ばれたけどもハゲてないひとをみやる。
紫の髪に緑の瞳の30代くらいのその男性は。
「魔法師団長の……カイル・フォレスタ侯爵さま……!?」
公の場にも出ることはほとんどなかったが、貴族名鑑くらいは暗記させられる。
そして……そう言えば代々フォレスタ家の当主の頭……と、思い当たり、慌てて目を反らす。
そしてさらに彼と共に来た魔法師団の制服を来た人々の中には……。
藍色の髪にアッシュブラウンの瞳の……あぁ、間違いない。彼は、第二王子アルヴィン・リュミエーラだ……!
「王女殿下に覚えていただいて光栄です。あ……もう王女では……」
そう魔法師団長が告げようとした時。
「そうよっ、その騎士とも思えない男のせいで深く傷付いたわ!」
いや、アンタじゃないでしょ。
「相変わらず、気持ち悪い」
その時、ボソッと呟いたのはアルヴィンである。
「何ですってぇっ!?大体何でアンタがここにいるわけ!?死んだと思っていたのに!愛人の子のくせにぃ!」
その時ローズマリーが叫び、アルヴィンが眉をひそめる。そう……アルヴィンは王妃の子ではなく……国王が平民の娘に手をつけて産まれたのだ。
「ぷ……っはははははっ」
すると騎士団長が嗤い出した。ローズマリーは今度は何事かと口を閉じる。
「遂に本性が出たな……!大勢の前で……!あ――――――っはははははっ!」
広いホールには騒ぎを目の当たりにした貴族や城の官吏たち、使用人たちや、騎士もいた。
その大勢の前で……ローズマリーは普段被っているおしとやかでかれんな聖女の皮を破り捨てた。
「……その、ち、違うわ!それはその……あなたのせいよ!粗暴騎士!」
「……んぁ?そらぁ俺のことか?」
まぁ、そうね。騎士団長じゃなかったら私を蹴りまくった近衛騎士くらいよね。
「あなたが私を貶めることばかり言うから……気が動転して……っ!悪役おぅ……花嫁までいるし……!」
再び嘘泣きを始めるローズマリーだが、騎士団長は気にせずニタリと嗤う。まさにゲス顔。ゲス顔なのに彫刻のような一定の美を保ってるんだけど、何なのかしらこのひと。そしてやっぱり悪【役】って何……?
「愛人の子のくせにだぁ?相当性格悪くなきゃぁ、出ねぇだろ、そんな言葉!クククッ」
騎士団長も相当性悪だとは思うのだけど……でも彼女とは違う。やっぱりその性悪、隠そうともしないからかしら。あと顔がゲスくても彫刻美。
「……その、俺もちょっと思うところがあるかな。さすがに涙を魔法石で出しているとなぁ……?」
と、魔法師団長。さすが、一瞬で見抜いていたらしい。しかしそんな魔法師団長に対してクロードは。
「は……?」
完全に呆けていた。え……本当に気付いてなかったの……!?
「出鱈目なことを言うな!魔法師団長!いや侯爵!ことと次第によっては、王族への侮辱罪だぞ……!」
クロードが吠える。
「王族の警護を担う近衛騎士団の団長が、これくらいの魔法すら見抜けないとは……私の侮辱罪を問う以前の問題ではないか?」
しかし魔法師団長は動じない。貴族としての位階は魔法師団長の方が下だが、しかし年長者の貫禄であろうか?あとは……単純にひととしての資質よね。
「貴様……私が公爵であると分かっているのか!?」
今度は爵位を盾に……?ここまで汚い人だとは……。
「あー、んーと。なぁ侯爵ハゲ」
騎士団長がおもむろに口を開く。
「だから私はまだハゲてない……!!」
そう、ハゲてない。『まだ』と言う言葉が意味深すぎる……。
確か育毛のポーションを作れるとかそう言う本を読んだことがあるのだが。私にも光魔力があればよかったのだけど。
「権力には権力を。公爵には公爵をだ。フレイア公爵が、好きにやっちまっていいってよ」
フレイア公爵……!?それって……。
「お母さまの実家じゃない……!」
ローズマリーが嬉々として叫ぶ。つまり彼女と王太子の母親の実家である。
「だからフレイア公爵は私の味方だわ!」
喜ぶローズマリーに、間髪入れずに騎士団長が冷たく告げる。
「んなわけねぇだろ、ハゲ性女」
遂にローズマリーまでハゲに……。
「いや、お前な。そうみなをハゲと呼ぶな。ハゲだって立派に生きているんだ……っ!」
そりゃそうかもだけど魔法師団長!今そこ!?
大事なことだと思うけど……!
「あぁ……そうだな……。アンタのおやっさんは……立派な魔方陣だった」
どういう比喩よそれ……!そして何で騎士の礼してるの……!?
「……っ、うぅ……っ」
そして何でそれに魔法師団長は涙を流してるのよ。あと、この涙は本物ね。
気を取り直し、魔法師団長が涙をハンカチで拭いながら姿勢をただす。
「一応私は魔法師団長だからな、相手の魔力の資質やら量も読み取れる。近衛騎士団長の魔力は下の下、性女殿下の魔力は中の下だな」
え……?魔法師団長がローズマリーのことを性女と呼んだことは置いておいて。ローズマリーの魔力は多いのでは……。
んー……。
ん……?
「あの、騎士団長や団員さん、魔法師団長、アルヴィン殿下の魔力は特に多いような気がするのですが……あのせ……性女殿下の魔力も多い部類に入るのでは?」
ついつい聞いてしまったのだが。
因みに団員さんは闇……?でも他にも属性があるような。
騎士団長はもやもやしててよく分からない。魔法師団長とアルヴィンは確実に多属性持ち。
「まさか。我々は特級なのでそれなりに多いですが、あれは多いとは言えませんよ」
「え」
クロードのも、今までは多いと感じていたのだが、今は感じない……?
「ハイポーションを飲んだ影響でしょうね。あなたさまはMPが急速に回復していらっしゃる。恐らくは我々と同じく特級の光魔力を持っていますよ」
「わ、私が……!?」
「きっと身体が弱ってらしたのでしょう。彼らの正しい魔力も判別できぬほどに……。幼い頃にあなたさまとお会いした時は、まさに聖女さまのようだと感服したものです。その後は体調を崩されたとかで中の下のローズマリー殿下が聖女の代行をしていらっしゃいましたが」
だ……代行!?ローズマリーは聖女じゃなくて、代行……。
「つまり、本当の聖女はイェディカで、そいつは聖女を語った偽物と言うことだ」
と、アルヴィン。私が本当の……聖女?
信じられなくてぽかんと口を開けていた時。素早くアルヴィンの首に手が巻き付いた!?その腕は……騎士団長から生えてるうぅぅ……っ!?
「てめぇなぁ、何勝手に呼んでんだ?」
何を呼んだのよ!?別に何もしてなくない!?あなたは一体何に嫉妬してんのぉっ!?くわっと深淵みたいな目を見開いてしかも喧嘩腰ぃっ!?
「こらこら、やめないか……!」
魔法師団長の制止で渋々アルヴィンの首から手を離した騎士団長だが。
「けほっ、ほんと……あなたってひとは……」
ほんとよね。うん。
「じゃぁ、とりまコイツらうるさいから行くか」
どこによ、騎士団長?
「ちょっと、どこに行く気よ!」
ローズマリーが声を上げるが……。
「あ゛?毟んぞ」
「ひぅっ」
いきなり何つー宣告してんの騎士団長!あまりの宣告に魔法師団長が喉『ひぅっ』って鳴らしたけど!?
「おら」
そして騎士団長がひらひらと手を振った瞬間……バサリと落ちた。何がって……決まってるじゃない。
「毛根からやったからナァ……?」
ものすっごいゲス顔であるが、芸術性のある見事なゲスさであった。
『あ゛――――――――――――っ』
このゲスの餌食となった2人は絶叫した。しかも魔方陣ですらない、まだらに……。
「ちょっとやりすぎなんじゃ……?一応彼女、女性なんだし」
「あの性女さま、平民の女の子の髪、毟る拷問とかやってるんだよ」
と、部下さん。
「異論ないわ」
「あぁ……何て酷いことを……彼女たちのためにも……うむっ」
魔法師団長も涙を呑んでいた。
「それにしても騎士団長はどこに行くの?」
「……どこって……嫁もらったんなら決まってんじゃん」
へ……?
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