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④イカれた騎士団長
「あぁん?てめぇらの実力はそんなもんか!ひゃっはははは――――――――っ!」
騎士団長が……壊れた……?いや、もともとかもしれない。このひとだいぶイカれてる……!
「ここまで骨がないとは思わなかったけどねぇ。まぁ削ったからだけどぉー」
騎士団長の部下さんもまた、嗤いながらかぁ……。
私とアルヴィンと魔法師団長が後に続く中、騎士団長と部下さんはバッサバッサと近衛騎士を捌いていた。いや……一応気絶だけ……らしいのだけど。あまりの惨状に使用人も脅えて震える始末。
「団長ぉ――――、使用人はどうします?」
「あん?恐怖魔法かけとけ片っ端から~~」
ひいぃ――――――。使用人にも容赦ない……!まぁ……肩入れする義理もないのだけれどね。
「でも……いいんですか……?こんな……」
まるで謀叛……?いやまさか。このままだと本当に国王のところまで行ってしまわないかしら……?
ちらりと一緒に歩いている魔法師団長を見やれば。
「まぁ、アルヴィンのためにも必要なことだからな」
アルヴィンのため……?
「そう言えば……今までは魔法師団にいらしたんですね……」
アルヴィンを見れば。
「いや……留学していた……」
留学?
「この国から手の及ばない遠い国にね」
知らなかった……そんなこと。いや、知るすべもなかったのだろうか。
「そうそう。それで最近、帰国の準備が整ったので、呼び戻したんだ。帰国してからは俺のところで面倒をみていたからな。自ずとして魔法師団の仕事を任せることにもなった。それは留学から帰ってきてから数週間ほどだな」
「――――――じゃないとこの国にいたら……殺されてるし」
アルヴィンの言葉が重くのしかかる。誰に……と言うのは言わずもがな……分かる。
アルヴィンが生命の危機にさらされていたこと。
「でもまぁ、掃除はだいたい済んだらしいしな」
ふと、魔法師団長が漏らす。
「掃除がだいたい済んだって……」
どういうことなのだろう。
「しかし……近衛騎士団がここまで弱体化していたとなれば……ただ事じゃないぞ」
「オリヴェルさんがやりすぎたのか……それともそこまで弱っていたのか……」
「物申したものは……僻地に送られたと言うしな」
それってまさか……。
昔はこんな王宮でも、庇ってくれる使用人や騎士はいたのだ。それでもいつの間にかいなくなった。みんな……死んでしまったのかと脅えた……。それからは……されるがままになっていたけれど。
――――――生き残っているひとが……いるのか……。
少しだけ希望を覚え始めたその時だった。突如現れたのは豪勢に着飾った女性……。最近は王太子とローズマリーばかりだったから久々に見たけれど、やはり変わってない。彼女は大勢の使用人を引き連れて、声を挙げた。
「これは一体何事……!?ここをどこだと思っているの……!」
そのひとは……この国の王妃だ。私を産んだ母親でもあるが……しかし私は彼女の娘ではない。
平民の娘に手を出した王。その王を王妃は責めた。しかし王妃が産んだのは、王にも自分にも似ない王女。
その後は魔法鑑定で私は王の実の娘だと判明したが、彼女が私の母親になることはなかった。そして私の後に産まれた自分そっくりな娘ローズマリーを、自分の唯一の娘とした。
――――――だから私にとってあのひとは……この国の王妃。ただそれだけである。
「あなた……っ、一体どういうつもりよ!」
王妃は真っ先に私を視界の中に捉えて怒鳴る。
いきなり恫喝されるのは……久々だ。顔を合わせるのが久々だから。顔を合わせるたびに恫喝された。……いや、そのために顔を合わせに来ていたと言ってもいい。
最近はローズマリーのおもちゃのようにされていたから……彼女が直接手を下すことはなかったが、それでも繋がっていたのだろう。ローズマリーと、このひとは。
「てめぇこそいきなりなんだ、このババァ」
しかしその視線を遮るかのように間にシュタッと舞い降りたのは騎士団長である。
「邪魔をするな。いや、邪魔をしなくても狩るけどな」
「な……なんですって!?王妃のわたくしになんてことを……!わたくしの実家はフレイア公爵家。まさか騎士団長ともあろうものがその意味も知らないとは……!ふふふふふ、やはり平民上がりではダメね……!」
王妃が嘲笑うように醜い表情を向ける。
――――――やっぱり騎士団長のゲス顔の芸術性は特級だわ……。
「はぁ……?バカじゃねぇ?厚化粧」
「な、何ですってぇっ!?」
王妃の目がつり上がるが、しかし……厚化粧である。ほんと素直よね、騎士団長って。
「俺たちが堂々とここまで来れた時点で……フレイア公爵家がどちらについているかくらい分かるだろ?」
「何を……フレイア公爵家はわたくしの……っ」
「アンタのもんじゃねぇよ。フレイア公爵のものだ」
どういうこと……?やっぱり、フレイア公爵は王妃の味方じゃない。でも何故……?
「そんなはずはないわ!わたくしのヴィンセントはわたくしの命令ならば何でも……っ!」
ヴィンセント・フレイア公爵……確か元々は王妃の兄が継いでいたが、不慮の事故でなくなり、庶子である王妃の異母弟の彼が継いだのだっけ……。確かまだお若いはず……肖像画は確か……。あれ?私の視線を向けた先には……。うーん、でもなら、さっきのは一体どういう仕組みで……。
「そのアンタのヴィンセントからの伝言だけどー……『特上の化粧品を仕入れましたよ』、だとさ」
その騎士団長の言葉に、王妃の顔が真っ青になる。そして、泡を吹いた。――――――にも関わらず王妃の周りの御付きは動かない。冷めた目で王妃を見つめ、そして手を伸ばす王妃の手も振り払う。
さらにはツカツカとアルヴィンが王妃の前に歩いて行った。アルヴィン……一体何を……?
そしてアルヴィンは告げたのだ。
「やっと母さんの仇がとれました」
その言葉に、王妃が驚愕する。その言葉を聞くまで……あんなに憎んでいたアルヴィンのことすら気が付かなかったのね……。
そしてアルヴィンの言葉には……。
子どもの頃にいきなり母を亡くした真実が込められていた。
「じゃ、掃除はしとけよ?入念に」
騎士団長が告げれば、王妃の周りにいた御付きたちが一斉に騎士の礼を返す。
「お任せください」
そう答えた女性はどこか……あ……彼女は。
騎士団長に続いて進む私の顔を見て、優しい笑みを漏らした。そうか……生きていてくれたのか……。私はホッと息を漏らした。
※※※
「ここは……」
そして引き続き騎士団長に続いて辿り着いたのは。
「ここが王の寝室だな。はぁ……遠かったぁ~~めんどぉー……」
その割にはずいぶんと楽しんでなかっただろうか……?
「確かに立派な扉ね……でも、護衛が誰もいないなんて……」
病床に臥せっており、王太子が代理を引き受けているとはいえ……。
「ん?問題ねぇよ。ちゃんと、ついてきてる」
「……え?」
何が、であろうか?
何だか一瞬、鳥肌が立ったのだが……。
「そうそう、行こう行こ~~う」
部下さんは部下さんで謎のハイテンションである。
そして騎士団長は扉に手をかけると……。
「うぉらぁっ!国王ハゲこんにゃろぉっ!!遠いんじゃボケぇっ!!」
ドゴンガラガラガッシャ――――――――ンッ!!
と……扉が粉々に……吹っ飛んだ――――――。
「おいおい、オリヴェルお前な!なるべく壊すなとあれだけ……」
魔法師団長が慌てて声をあげる。
あ、あぁー……だからその、建物に傷はつけていなかったのか……納得だけども。
「こんなに遠いんじゃ、不便だろ?」
騎士団長が何故かアルヴィンを見ながら言う。
「そう言う問題ではないでしょう?あなたはもっと、こう言う造りになっている意味をですね……っ」
と、アルヴィンが言いかけるのだが、騎士団長は構わず中に続いていく。
「あ……っ、ちょっと……っ」
何だか拒まれている気は……しない……?そしてこの中に……国王がいる。
広くガランとした寂しい部屋の中央にある……ベッドの上には。
「……ひっ」
「はんっ、国政上はまだ生きてることになってるんだぜ?これでも」
「これでも……って……」
もう……骨になってるじゃない……。
王妃は、王太子は……何故。
「じゃぁ何で王太子は……王太子のままだったの……?」
「王になれなかったからじゃねぇ?なっててもクソみたいな国真っ逆さまだろうけど」
そりゃぁ……そうだと思うけど。
「あなたは……知ってたの?」
私は騎士団長を見る。すると騎士団長はニィッと口角をあげる。
「フフ……っ、ハハハハハッ!お前も……相当バカだなァ……?」
「え……っ」
その時気が付いた。
後ろに魔法師団長も、部下さんも、アルヴィンもいない……。むしろ闇の中。ベッドとそこに安置された国王の骸だけが残されている……。
「一体あなた……何なの……!?」
私の問いに、騎士団長は醜悪な笑みを浮かべた。
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