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第59話 どうしても…‥‥
「課長、わたし今日早退させてください!」
「えっと、朝来て早々、急に早退したいと言われても仕事の段取りってものがあるんだから」
そうだ……思わず言ってしまったけれど、周りの人のこと考えてなかった。
わたしの勝手な振る舞いで迷惑をかけてしまう……
でも……どうしても…‥‥
「課長、楓月さん、入社以来一度も有休使ってませんよ。それってコンプライアンス的にどうなんでしょうか?」
言ってくれたのは久保さんだった。
「え? あ?」
「楓月さんの分は自分がやりますから」
「わたしもやりまーす」
玖珂さんもにこにこしながら言ってくれた。
「久保君も、玖珂さんもそれでいいなら」
久保さんとは普段ほとんど話なんてしたことなかったのに。
玖珂さんまで助けてくれるなんて。
「帰ったらいいよ。楓月さんにとって大切な用事があるんでしょ? その代わり、僕がコミケに遠征する時は仕事頼むから」
「ありがとうございます」
「楓月さんのそういうのって貴重ですもん。後のことは任せてください、久保さんに」
「え?」
久保さんが驚いて玖珂さんに目を向けた。
「ありがとう。ごめんなさい」
急いで廊下に出ると、郡山さんが立っていた。
「ホント、毎回なんで僕がこんなことを」
そう言いながらUSBを渡してくれた。
「絶対失くすなよ。見たら中身は完全に削除しろ。変換ケーブルも一緒に貸してやる。これは今度でいいから返すように」
理由もわからないままUSBを受け取り会社を後にした。
そしてその足で、新幹線に乗った。
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