8人が本棚に入れています
本棚に追加
焼け落ちた一角。その前に少女はやって来た。黒く焦げた部屋の中。二つの思念が彼女を見つめている。
小さな男の子と、優しそうな壮年の男性だ。彼らは少女に一礼すると、霧のようにかき消えていった。
父と子の消えた後に、少女は光るものを見つけた。灰に埋もれたそれをすくい上げる。
赤い、とても美しいルビーだった。それを握り締めて、少女は傍らに佇む少年の手のひらにそっと置く。彼が宝石を見て何を思ったかは、時渡りは知ろうとはしなかった。
「お姉ちゃん」
少年が少女の袖を引っぱった。振り向くと、彼が先ほどのルビーを差し出していた。
「これ、お姉ちゃんにあげる」
「いいの?」
「うん。お父さんとお兄ちゃんがそうしなさいって」
「そう……」
可愛らしい笑みを浮かべる少年の手の中から宝石を受け取り、少女は優しく微笑んだ。
「ありがとう」
最初のコメントを投稿しよう!