独占欲「兄への嫉妬」

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焼け落ちた一角。その前に少女はやって来た。黒く焦げた部屋の中。二つの思念が彼女を見つめている。   小さな男の子と、優しそうな壮年の男性だ。彼らは少女に一礼すると、霧のようにかき消えていった。 父と子の消えた後に、少女は光るものを見つけた。灰に埋もれたそれをすくい上げる。 赤い、とても美しいルビーだった。それを握り締めて、少女は傍らに佇む少年の手のひらにそっと置く。彼が宝石を見て何を思ったかは、時渡りは知ろうとはしなかった。   「お姉ちゃん」   少年が少女の袖を引っぱった。振り向くと、彼が先ほどのルビーを差し出していた。   「これ、お姉ちゃんにあげる」   「いいの?」   「うん。お父さんとお兄ちゃんがそうしなさいって」   「そう……」   可愛らしい笑みを浮かべる少年の手の中から宝石を受け取り、少女は優しく微笑んだ。   「ありがとう」
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