独占欲「兄への嫉妬」

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朝を告げる時計の知らせで若者は目を覚ました。いつの間にか眠ってしまっていたようだ。机に突っ伏したまま、思考を巡らせる。   「……あれ?」   不思議と、以前まで感じていた心のわだかまりが消えたような気がした。先ほどの夢を思い出す。   ………もしかしたら、夢に出てきたあの女の子が、自分の後悔を和らげてくれたのかもしれない。 そんな気がする。いや、きっとそうであろう。あの幼かった記憶が鮮明に蘇り、そのそこかしこにあの少女の姿が浮かんでいる。 彼女は、何者だったのだろうか?   あれから屋敷は成長した若者が復元し、住まいとしている。遠い日の記憶もそのままに。 彼はこれからも決してあの出来事を忘れはしない。しかしそれは、これからの彼を苦しめる記憶ではない。 未来を乗り越えるために、若者は今日も一歩を踏み出すために立ち上がる。   そんな彼を、少女は本棚の上からにこやかに眺めていた。その手には、幼き頃の彼から託された赤き想いのかけらが握られていた。   独占欲「兄への嫉妬」 完
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