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師への尊敬「二人の学者」
緑の茂る小高い丘の上に、小さな墓標があった。生年1824年~没年1879。これはクレバー・トンプソンと呼ばれた学者の眠る墓である。その墓前に、花束を持った初老の男が立っていた。
男はそっと花束を墓前に備え、墓の主が生前好んでいた酒を墓標に注いだ。
「……教授、また今年も春がやってきましたよ」
墓標の前に座り込み、男はボトル酒を取り出して墓前で乾杯の仕草をする。そして一口飲んで深いため息をもらす。
「早いもので、もう三年です。今でもあなたは街の英雄ですよ」
またボトル酒で喉を潤し、男は今でも師と仰ぐ者の墓に語りかけ続けた。その表情は憂いを帯びた悲しい微笑みをたたえている。
その男のすぐ背後で、時渡りの少女はその様子を眺めていた。風に銀の長髪がなびき、夕陽に美しく輝いている。
そのうち男はふと、背後の少女の気配に気づいた。彼の目に映る幼い少女は、儚い笑顔を浮かべて、そこに佇んでいた。
「君は……」
男が言いかけて、息を飲む。少女の首にさげられたエメラルドのネックレス。それはそう遠くない過去で、男が少女に託した想いであった。
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