師への尊敬「二人の学者」

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熱気溢れるベカトワの街。借りた建物の中で、クレバー教授は今日も研究にいそしんでいた。フィリジアに対抗するには、敵をよく知らねばならない。 老教授は顕微鏡を覗きながら、次々に細菌に関する情報を紙に書き記している。 そんな彼の横で、この時代に渡ってきた時渡りがちょこんと椅子に座って研究の様子を眺めていた。   ある男の「想い」が少女をこの時代に引き寄せた。その想いの主は、教授と同じように部屋の一角で何やら薬品をいじっている。   「教授!」   突然、その男が声を上げた。赤紫色の液体の入ったフラスコを揺らしながら老教授を手招く。   「フィリジアの性質に基づいたワクチンの試作品です」   「おぉ、遂に出来上がったか」   白衣の男の報告を耳にして、クレバー教授は嬉々として彼の元へ駆け寄った。   「恐らく、これで細菌の活動を抑制できるはずです」   「よしよしフランク、よくやった。どれ、ひとつ試してみよう」   採取し、固体化させた細菌の入ったシャーレを棚から取り出し、顕微鏡でそれを覗く。シャーレの中では多くの細菌が活発に蠢いていた。   「こいつらに……お前の試作した第一号を……垂らす!」   フラスコから一滴のしずくがシャーレの中に滴った。その瞬間、液体に触れた細菌の動きが非常に緩慢になっていた。それを確認して二人は歓喜の声を上げた。   「やった! 連中の活動が弱まったぞ!」   喜んで液体の入ったフラスコを掲げる。   「こいつは大きな第一歩だ!」   すぐさま二人はさらなる研究に取りかかった。この液体をベースにワクチンを作り出すことが可能かもしれない! そう思うといてもたってもいられない。 世話しなく動き回る二人。それを傍観していた時渡りは椅子を立ち、顕微鏡を覗くのに没頭しているフランクに手を触れた。   二人がワクチンの試作品を作り出した時代から、三年先の未来へ。そこに時渡りはフランクの想いが集まっているのを感じていた。
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