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教授の最期はそれから二ヶ月後だった。病魔が進行し、研究を続行することの出来なくなった彼は、フランクに後を任せて旅立った。
安らかに眠る教授。ベッドに横たわる彼の傍らで、フランクは静かに泣いていた。その様子を時渡りは部屋の隅から眺めている。二人に起こった悲劇。しかし、フランクの記憶に眠る「想い」はまだその姿を現してはいなかった。
もう少し先の未来。恐らく、彼の想いはそこに集う。だがすぐには彼女は時間を越えようとはしなかった。
教授の遺体は火葬され、その骨はフランクに預けられた。師に、ワクチンの完成を見せてあげたいとフランクが嘆願したためである。
教授が居なくなった研究室。時渡りはクレバーが横たわっていたベッドに歩み寄り、静かにまぶたを閉じて集中した。
「フランクめ、張り切っておるわ」
そこには居ないはずの老教授の声が、少女の頭の中に響いた。目を開けると、生前と変わらぬ白衣を纏ったクレバー教授が座っていた。
教授は少女を見下ろして、にんまりと笑む。
「お前さん、ずっと私たちを見ていただろう?」
コクリと少女は頷く。教授は立派な口髭を撫でながら、「そうかそうか」と彼女の頭に手をやった。
「お嬢ちゃんが見ているの、私は気付いていたよ。姿は見えんかったがな」
「どうして?」
少女は小首を傾げて問いかけた。老教授は「はっはっは」と軽く笑い、白衣のポケットからあるものを取り出した。
「こいつは私のお守りでな。お嬢ちゃんのようなものが来るとこう……ざわめくんだよ」
教授はそれを少女に手渡した。そして神妙な面持ちで彼女の手を握って言う。
「こいつをあそこで頑張っとるあやつに渡しておくれ。それで私はあやつを助けてやれるからな」
そう言って、特徴的な笑顔を浮かべて教授の姿はかき消えた。残されたのは、時渡りの手に輝くエメラルドのネックレスだけ。
少女は老教授の言葉通りに、ネックレスを疲れて眠ってしまったフランクの横に置いておいた。
教授の想いの詰まったネックレス。その輝きは、闇夜でもかげることなくフランクを照らし続けた。
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