独占欲「兄への嫉妬」

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独占欲「兄への嫉妬」

若者は今日の仕事を終えて、我が家へと帰ってきた。迎えてくれる者は、彼にはいない。ひっそりと静まり返った室内に明かりをつけて、独り自らの書斎へ入っていく。 ……今日もあの出来事が蘇ってきた。もう、十年以上昔の話だというのにこの「想い」は未だ一時さえも消えることはない。  何を今更。何故、自分はこんなに悩んでいるんだろう。あれは、自分が出した結果だ。……今更後悔したところで、失ったものは戻って来はしないのに。 「後悔」。ただ、その念が若者を苦しめていた。     時渡りは並び立つ本棚の上から若者を眺めていた。その心に巣くう「後悔」の想いが彼からにじみ出ているのがわかる。過去にその後悔の真相はあるようだ。 自らの想いに苦悩する若者。そんな彼の片隅に静かに舞い降り、少女は白く小さな手で、若者の背に触れた。 その瞬間、彼の心に映る想いのイメージが、少女の中に流れ込んできた。     少女がまぶたを開く。そこは変わらぬ姿の彼の家であった。だが、時渡りである彼女は感じていた。ここは若者の苦悩の原因が存在する、過去の屋敷なのだ。   きゃはは……   どこからか、子供のはしゃぐ声が聴こえる。少女が階下に降りてみると、そこでは二人の男の子が戯れていた。よく似た二人は兄弟だろうか。その片割れは、見覚えのある顔立ちをしている。恐らく、先ほどの若者なのだろう。   少年たちはとても仲が良さそうに見えた。何が若者を苦しめているのか、見定める必要がある。   しばらく時渡りの少女は子供たちを眺めていたが、やがて遊び疲れて眠ったようだ。少女が興味をなくして立ち去ろうとしたとき……   がたっ………   玄関の方から物音が聞こえてきた。それが聞こえた瞬間、寝静まっていた少年たちが飛び起きた。   「お父さんだ! お父さん、帰ってきたんだ!」   兄弟は目を輝かせて玄関へと駆けていく。程なくして、開け放たれた扉の向こうから楽しげな少年の声が響いてきた。どうやら彼らは、父親をいたく気に入っているようだ。
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