独占欲「兄への嫉妬」

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少女は扉から顔を出し、家族集合の様子を垣間見た。 兄とおぼしき少年が、きゃっきゃ、きゃっきゃと喜んでいる。父親に高く抱かれて、その表情は満面の笑みと幸福感であふれていた。 しかし弟は………   「お父さん、僕も僕も!」   うらやましそうに嘆願する弟。そんな彼を見やって「後でな」と、軽く父親は微笑んだ。 そう言って父親は兄を抱いたまま、兄弟の遊んでいた居間に踏み込んでいく。その後を、弟が寂しげな笑みを浮かべて付いていった。その背中はとても寂しくて、今にも爆発しそうな感情を、子供ながらに必死に抑えているのがよくわかる。   そうして時は過ぎ、すぐに二人の兄弟が寝静まる時間がやってきた。ベッドに入って寝静まろうとする二人。そんな二人の寝室に、父親が絵本を持って入ってきた。   「今日は新しいお話しを話してあげよう」   父親はベッドの横に腰掛けて、兄弟に絵本の物語を聴かせてやった。その話は子供向けの稚拙なものではあったが、兄弟にとっては十分に楽しめる内容である。二人はうとうとと父親の声に耳を傾け、やがて深い眠りにつく。実に幸せそうな寝顔を浮かべて。 兄弟が眠ったことに気づくと、父親はぱたんと絵本を閉じて、二人の額に軽くキスして部屋を出ていった。   父親が居なくなり、室内は兄弟の寝息だけが響く空間へ変化した。そのわずかな寝息の交錯する中、時渡りの少女は二人の寝顔をのぞき込んだ。   二人の寝顔に寸分の違いはなく、兄も弟も同じ幸せを共有していた。……この瞬間だけが、兄弟が分け隔てなく父親の愛情を受けることのできる時間なのだろう。それを読み取った少女は二人の隣に座り込み、鞄の中から水の入った瓶を取り出し、口にした。
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